(玄業平也) あるじつぎによむ (古今) ぬきみだる人こそあるらし。しら玉の まなくもちるか袖のせばきに (玄前にもいふことく業平の日記也) とよめりければ、かたへの人わらふこと にやありけむ。このうたにめでゝやみ (肖芦屋より布引への間三里はかり也) にけり。かへりくるみちとをくて、うせ にし宮内卿もちよしが家のまへくるに (業平の芦屋のいへのかた也) 日くれぬ。やどりのかたを見やれば、あ (漁火也するイ) まのいさり火おほく見ゆるに、かの (玄業平也) あるじのおとこよむ (新古今) はるゝよのほしか河辺の蛍かも (にイ 祇みつなからうたかふか也) わがすむかたのあまのたく火か * いづれたかゝらむと也。 待かひのなみたと無の じにいひかけたる歌也 旧説は秀句にあらず 待かひは間也祇云行平 我身の時にあはずし ていたづらに明し暮す ほどに我世をば早けふ かあすかに極りたる 身とおもふる。泪と此 瀧とは何れ高からむと 云心也諸説同義口訳 ぬきみたる人こそ 古今十七業平の歌也 ぬきみだるは珠を糸 よりぬきちらしたる也。 瀧の白玉を袖の泪 にたとへてよむ也師此 歌は彼に小柑子栗の大 さしておつるをよめり。 かくはたばりもな き袖にさも間断 * とよみて、家にかへりきぬ。その夜南 (肖早朝也) の風ふきて波いとたかし。つとめてその (玄波にうかひてよかし海雲也) 家のめのこどもいでゝ、うきみるのなみ によせられたるひろひていへの内 (肖業平の家の女中より也) にもてきぬ。女がたより其みるを (肖高土器と書昔は土にて作しにや) かたつきにもりて、かくはおほひて いたしたるかしはにかけり わたつ海のかざしにさすといはふもゝ きみがためにはおしまざりけり ゐなか人の歌にてはあまれりやたらずや * なくちる瀧の白玉 か。もしかみに糸ぬき みたる人こそあるらし と也。さて袖のせばき などよみて身の時に あはぬ述懐をよみて、 其泪の隙なき事を よめり。祇註等の諸説は 述懐の儀にあえあず。珍 しき瀧の白玉のせはき 袖にあまるばかりなるを 過分に思ふ心云々不有所好 うせにし宮内卿もちよし 玄何者やらむ系図に 見えず。其家の前に て日暮たるなどいふ物 語の余情也徐嬬 宅前湖水東など 夢中に見たるなといふが面白き事也愚案其三体詩分明記得還家夢云々 はるゝよのほしか肖芦屋の里の漁火頼もなく見えて所のさまも 面白き当意をよめり。いさり火とはみれども見る目の寄異なき所と ほめむとて、星の河辺の蛍かあまのたく火かとうたがへる也*