たれど、物やゆかしけりけむ。かものまつ
り見にいでたりけるを、おとこうた
よみでやる
       (しは助字也)
 世をうらみのあまとし人を見るからに
 めくはせよともたのまるゝかな
これは斎宮の物見給ひけるくるま
                      (玄はつべくおもひて)
にかくきこえたりければ見さして
(見さして帰給ふなるへし清同)
かへり給ひにけりとなむ
百五
                     (師つれなき人なれば也)
むかしおとこかくてはしぬべしといひやり
たりければ女
 しら露はけなばけなむきえずとて
 たまにぬくべき人もあらじを
*  給ふよし也一是も斎宮
   の事也
  かたちをやつたれと
   玄かたちをやつしなど
   する人の見物などいさめ
   たるこゝろよりかけり
  賀茂のまつり卯月中
   の酉の日也。むかしの見物
   なる由也。其さま江次
   第等に委。葵柱など
   かけらくなまめかしき
   も此日の事也
  世をうみのあまとし
   一世をいとひて尼になれ
   るを、世を海の蜒とうへ
   たり。祇同くは世とは目に
   て心をかよはず事也
   玄尼を海人によせて
   よめり。和布をば海士の
   かる物なれば、めくはせ
   よといへり。世をうしとて
   尼になれる人ときく
   ほどに、めくはせして
   こゝろをあはせよと也 *
といへりければ、いとなめしと思ひけれど、
心ざしはいやまさりけり
百六
むかしおとこ、みこたちのせうえうし
給ふ所にまうでゝ、たつた河のほと
りにて
(古今)
  (神といはむ枕詞也)
 ちはやふる神代もきかずたつた河
 からくれなゐに水くゞるとは
* しら露はけなばけなゝむ
   肖きえば消よと也。玉に
   ぬくべき人もあらじとは
   露は玉に似たる物也。玉
   をばつらぬきもつ物なれば、それによそへて愛し用る人もあらじ
   と、業平を見はなつ心也。露を業平によそへていつる也
  なめしとおもひ玄河海に軽日本紀無礼。清説に白露はけなばけなゝむと
   いふは、あまり存外には思へども、心ざしはいやましになると見るべきやと被仰し
   師あまりかろしめたる詞哉とねたき物ながら、思まさる事恋路の習ひなるへし
  ちはやふる神代も一古今
   第五詞書二条后の東
   宮の御息所と申ける
     時に、御屏風に立田河に
   紅葉ながれたるかたを
   かけるを題にてよめる
   紅葉ゞの流れでとまる
   湊には紅ふかき浪や立
   らむ。此素性の歌と双べ
   てのせたり。此物語には如此あり玄是は作物がたりなれば龍田河にいたりて其当意
   をよみたりと見るべし肖此歌は立田河に紅葉散しきて河の面も見えぬばかり
   なるに、水は紅をくゞるやうに見えたるさまをほめて、神代にもかゝる事は
   きかずといへる也。神代は神通自在の代なるに、其代にもきかぬ由也 *