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春日権現霊験記繪巻

「春日権現霊験記」
   について

Royall Tyler氏著書より
はじめに

 『春日権現霊験記繪』(20巻)は、藤原氏の氏神として、興福寺と一体となって政治的・文化的両面での大きな影響力をもった春日大社の効験を集成した絵巻物である。

 成立は鎌倉時代後期の1309(延慶2)年、絵師は高階隆兼と、成立年代や絵師の具体的な名までが判明している数少ない例で、歴史的資料としても注目されている。
 原本は宮内庁三の丸尚蔵館蔵だが、剥落などで痛みが激しく、研究は通常江戸期の忠実な写本(東京国立博物館蔵)を用いて進められてきた。我々が手近に利用する中央公論社刊の日本絵巻大成も、原本ではなくこの写本を撮影したものである。

 ここに画像データとして公開するのは、第一巻末に綴じ込まれた解説紙片によれば正確な刊年は不明ながら大正期の「絵巻研究会」(顧問正木直彦東京美術学校長、今泉雄作大倉集古館館長など)の発行になり、また巻二の軸および巻二・三の箱に張付された紙片によれば、大正一五年七月二〇日に春日権現霊験記絵詞完成会(代表者田中正平、川村五十四)の手によって発行(毎月一回発行とある)された木版による複製本だが、巻一と巻二・三とでは装幀にも紙質にも若干の相違がある。他館の所蔵状況などに照らしても、第四巻以降の巻の存在は知られず、ここに掲げた3巻だけが刊行され、そこで中絶したらしい。なお巻一の巻頭の草創由来部分32行はなく(このことは諸本のうちの春日本の現形態に一致している→Tyler氏の解説を参照)、また巻二には二箇所の詞書の脱落がある。
 また奈良女本では、巻三の詞書部分に一箇所、それぞれ1紙8行分の前後貼り違えがあるが、画像ファイルでは修正したものを示している。

 木版の技術はきわめて高く細部の描写に優れ、詞書にはごく少数の誤りもあるが、基本的に字体もその形をよく写している。また、絵部分は、原本はもとよりその忠実な写本に比してもたとえば樹木の緑色などとりわけ鮮やかな色彩で再現されており、原本作成当時の面影を伺わせるものとなっている。

奈良女子大学大学院助教授 千本英史

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