蟹満寺縁起絵巻

川崎大師蔵(神奈川県)

 蟹満寺は、木津川下流域(木津川市山城町綺田浜36)にある真言宗智山派の古社寺。 白鳳時代末期の創建で、本尊の銅造の釈迦如来坐像は国宝である。同寺は「蟹の恩返し 」譚の寺院縁起で知られるが、同縁起は『日本霊異記』に二話の類話を持つのが文献上 の初出で、そこでは行基菩薩関連説話として語られている。11世紀中葉に成立した『本 朝法華験記』で初めて「蟹満多寺」というこの寺院名と結びつき、『今昔物語集』、『 古今著聞集』、『沙石集』など多くの説話集に採録されてきた。このように広く流布し た話ではあるが、これまで絵巻が紹介されたことはなく、この川崎大師蔵のものが唯一 の報告例となる(巻末に「その寺を、きまんじとぞ名づけける」とするが、これは書写 を重なるうちに「かにまんじ」とあるべきところが写し誤られたのであろう)。
 調査段階で、慶応義塾大学の石川透教授によって、詞書の執筆者が朝倉重賢(17世紀 半ば)と鑑定されたことは特に注意される。重賢は生没年不詳ながら、巻末に自身の署 名のある『文正草子』や、『雪女物語』、『七草絵巻物』などの詞書筆写者として知ら れ、「奈良絵本」の製作にかかわった人物として、近年注目されている。これらのうち 、『七草絵巻物』は国会図書館デジタル資料 として同ホームページ上で一般に公開さ れている(http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288352)。 どうかパソコン上で字体を比較してご覧いただきたい。

蟹満寺縁起絵巻

蟹満寺縁起絵巻 巻姿