とあるを見てなんたへがたきこゝち
しける
 とへばいふとはねばうらむ貫さし鐙
 かゝるおりにや人はしぬらん
十四
むかしおとこみちのくにゝすゞろに行
     (肖誰ともなし)
いたりにけり。そこなる女、京の人はめ
          (師深切にの心也)
づらかにやおぼへけん。せちにおもへる心
なんありける。さてかのをんな
           (天福桑子蠢也)
 中中にこひにしなずはくはごにそ
* とあるをみてなんこへが
  たき師彼文のとゞきと
  どかぬも心もとなく、遠く
  へだゝりしかば女の心かはり
  かはらぬもおぼづかなきに、
  慥にとゞきては、恋しくもなつかしくもたへがたき心ちすると也
 とへはいふとはねば師此返歌は彼心づかひゆへ其後をとせざりし事はいふべき
  事にもあらねば、只女のうたの詞につきて、のべやりたるばかりの返しなるべし玄とへは
  つらしといふ。とはねは恨みをなす。進退せんかたなければ、かゝる時にや人は死する
  物にてあるらんと也愚案此段諸抄委からず師説に付てよく翫味すへし
 すゝろ玄心ならず也
 京の人はめづらかにや。
  師中将の美男にて女の
  おもひかけたりとはいは
  ざる書さま面白きにや
 中中にこひに
  師中中にいはなましひにと
  いはんかごとしうき恋に*
(入万葉)     (玄そとの問也)
 なるへかりけるたまのをはかり
     (玄田舎めきし也)
うたさへぞひなびたりけるさすか
 (玄業平の人をすてぬ心みえたり)
にあはれとや思ひけんいきてねに
けり。夜ふかくいでにければ女
 夜もあけばきつにはめるでくだかけの
 まだきになきてせなをやりつる
* 「 」「 」「 」ゐに死なで
  物思はんよりはの心也
  一是は万葉十三の歌也
  桑子はかいこをいへり
  歌の心は恋をして
  死なずて久しく物
  を思はんよりは、かいこに
  なりてしはし有て死
  なばやとよめる也。玉
  の緒ばかりはしはしと
  いふ心也古今しぬる
  命いきもやすると心みに玉のをばかりあはんといはなんがいこは一年の
  中に死する物なればかくいへり玄是歌万葉にあり。少かへていへり。是亦作
  物語の故也中中に人とあらずは桑子にぞならまし物を玉のを計
  師此歌のくはこにそなるべかりけるとは、桑子は桑うちくひて何おもふ事も
  なげなれば、其さまをうらやみてよめるにや。田舎の女のかいこは手馴し物なれは也
 夜ふかくいてにければ玄心とめんやうにもなき歟。あくるをまたで出る也
  末摘花の巻に、あるにつけてか御心もとまらん。夜ふかく出給と有是より書也
 夜もあけばきつに天福本に東国之習家ヲクダト云。家鶏也き。一きつに*