二十二
むかし、 はかなくてたえにけるなか、 猶やわすれさりけん、 
女のもとより、 
   ○何とさしたる事なくて、 中絶也。 蒼、 此段定
  心なき小人の体也。 
うきなから人をはえしもわすれねはかつ恨つゝ猶そ恋しき
  一度別て後に、 うきものに思ひはてたれとも、 猶
  猶え忘れされは、 かつ恨つゝ猶そ恋しきと云り。 
  ○かつは、 かつかつにあらす。 かく也。 
といへりけれは、 されはよといひて、 おとこ、 
  愚云、 女の方より歌をおこせたれは、 男され
  は我もさ思ふといひて、 返歌をしたり。 

あひみては心ひとつをかわしまの水のなかれてたえしとそ思ふ
  愚曰、 女のとりて 師云、 心ひとつをとは、 別にわくる
  心なく也。 心をかわすとつゝけたり。 川嶋は、 流の中の砂
  たまり高き所也。 水のたえぬ所也。 君と我と、 一つに心
  を川嶋の水の如くたへまいと也。 惟曰、 川嶋の水は、 
  行廻て逢物なれは、 心をかわして別行。 末流之絶
  まいと愚にあり。 あちうち引まはりたる義也。 不用。 
とはいひけれと、 其夜いにけり。 いにしへゆくさきの事
ともなといひて、 
  肖云、 けんとの辞、 心得がたし。 歌には行
  末かけて契也。 かくは云也。 けんどのえ念せす