酒をもつて池としさかなを林のごとくにしておとこ女をともにあかはだかとなしう
ちまぜて夜のあくるも日のくるるもしらず淫乱なるあそびをなし天下のまつりごと
におこたりたまひしゆへなりまた周の世のさかへ侍りしは大王の御子に王季と申す賢
王ましまして御后太任とともに聖賢の御徳をあらはしたまひ太任の御腹に文王
と申す大聖人うまれたまひて周の代やすくおさまり侍るなりその末孫幽王に
いたりて天下をうしなひたまひしは褒じといふ女にふけりたまひて申后と申す后を捨
たまひ后腹の太子伯服をもおいうしなひたまひてひたすら褒じのみを寵愛したま
ひけるあまりのことに色々のわざをなして褒じをなぐさめたまへども褒じかつて笑ふ
ことなしいかにもしてわらはせてもものこびを愛したはふれたまはんとおぼし召さま
ざまのことをなす中にのろしといふ火の手あげければそこにて褒じおもしろ
くおもひ笑ぬこののろしといふことは一つにはとぶ火とも名付て王城に大事出来たる
とき高き所にて此火の手をあぐれば諸国の人人火の手をみつけすは都に故あり
と心得いそぎかけつけ来るあいずの火なりしかるに此とき火の手をあげなにの故
にあらざるに諸国の人人かけつけ来りおどろきさはぎたるけしきなるをみて