かいまみてげり肖垣間見也。たゞ物ごしなどにほのかに見たる心なるべしや。如此いへは優なるべ
  し玄源氏などにおほき詞也。日本紀より出たる詞也一視其私屏日本紀視私屏旧事記*
(師おぼしなき心也思ひの外の義也)(いとは助字也)
おもほえずふるさとにいとはしたなくて
     (玄はや心をかけたる義也)
ありければこゝちまどひにけり。おとこの
きたりけるかりぎぬのすそをきりて
うたをかきてやる。そのおとこしのぶず
       (なんは助詞也)
りのかりぎぬをなんきたりける。
* 領地あるべき事勿論也。清玄同義平城天皇ならの京におはしませし也
 はらからすみけり肖此兄弟の女誰ともなし玄古註は紀有常がむすめ兄弟有といふ
  不用也和歌の読人不知の類にすべし。誰ともなきを其名を誰とあらはして用
  なき事也一清同義
 おもほえずふるさとに
  一ならの京は其頃はや旧都
  になれる故、古郷となり
  にしならの都にも色は
  かはらず花咲にけり
 いとはしたなくて有けれは
  玄はしたなくてはよはき
  物につよくあたるやう
  の心をいふ。此古郷のあれ
  たる所に、かゝる風流なる女のあるは似合ざるやう也師説はしたなきはつきなく似
  合しからぬ心也。よはき物につよくあたるも不似合義也。枕草子、云ばしたなき物
  こと人をよぶに我かとてさし出たる物表なる事など人のかひてうらなく
  に、げにいと表とはきゝながら、泪のふつと出こぬいとはしたなし云々。是らもつき
  なし似合しからぬ儀也。古郷の荒たるに似合しからずなためける女のあれば、思ひの外
  にめずらかにて、心のかゝりたるとの儀を心ちまどひにけりといふ也
かすが野のわかむらさきのすり衣
新古今しのぶのみだれかぎりしられず
   (両説あり)
となんをひつきていひやりける。つゐ
でおもしろきことゝもや思ひけん。
 みちのくのしのふもぢすり誰ゆへに
古今みだれそめにし我ならなくに
といふうたの心ぞへなり。むかし、人は
*かりぎぬのすそをきりて肖思ひの切なる躰也玄花などの枝も折
  なければ、狩衣のすそをきりて、それに歌をむすびつけてやるなるべし
 しのぶずりのかわぎぬ玄もとは狩装束に摺狩衣を賞ずる也むかしは奥
  州信夫の国府の名物とて、忍ふずりをおほく奉りし事也。其狩衣にて
  こそ有つらめ一中将の狩衣の紋に忍ぶすれるなるべし。歌の詞によらずむ
  らさきの根にてすれるにや師陸奥信夫ノ郡に大なる石二つあり。其
  おもて平にして戻のやうに紋有。それに此京にても藍にても摺たる
  布を年貢にしたるをしのぶもぢすりとも忍ふずりともいふ也。(古今飛鳥井家の聞書にあり)*
 かすがのゝわかむらさきの
  玄是は序歌也。忍ぶの
  みだれかぎつしず
  といはんために、春日
  野の若紫の摺衣と
  いへり。此女をほのかに
  見てより、我みだれた
  る思ひの限りしられ
  ずと也清同肖春日野
  の若紫とは所かずが
  野なれば也一紫は草の*