きみならずしてたれかあくべき
などいひいひて、つゐにほゐのごと
くあひにけり。さて年ごろふる
    (惟女の親の卒する也肖同)
ほどに、女おやなくたよりなくな
         (惟たがひにいふかひなき体にて)
るまゝに、もろともにいふかひなくて
(あらんよりももろともによき方にゆかんと也)
あらんやはとて、かうちのくにたか
やすのこほりにいきかよふ所いで
    (さはありけれどゝ也)
きにけり。さりけれど、此もとの女
(玄嫉妬するこゝろもなき也)
あしとおもへるけしきもなくて、いだ
         (女の他人をかよはすかとかへ)
しやりければ、おとここと心ありて
(りてうたかふ也)
かゝるにやあらんと思ひうたがひて
せんざいの中にかくれゐて、かうちへ
* にとよめり肖是は
  例の作物語なるへし。女此
  歌古歌にあるを中
  将のと書なせり
 くらべこしふりわけとは
  玄あそびたりし時くらべ
  たる髪なるべし祗ふり分
  髪とは童女の髪也。
  かた過ぬとは年をへて
  髪あげするほどに
  なる心也。君ならずして
  とは必男のするわざに
  はあらねど業平ならで
  誰か手ふれんの心也
  師髪あくるとは髪を
  ゆふ事也日本紀文武
  紀に結髪とよめり
 もろともにいふかひ
  肖男女ともにかやうに
  たづきなくてありへん
  もいかゞとてをのをのいか
  やうにも然へきかたに*
いぬるかほにて見れは、此女いとようけさう
じてうちながめて(此歌白波は盗人と云説不
         用白波賊後漢書にあり)
 風ふけばおきつしら波たつた山
古今
 夜半にやきみがひとりこゆらん
         (かゝる女の心をしらてわか)
とよみけるをきゝて、かぎりなくか
(うたかひたる事よと悲しむ也)
なしとおもひて、河内へもといかずな
りにけり。まれまれかのたかやすに
           (イにそ)
きてみれば、はじめころ心にくもつ
(かたちつくりもせきかしにや)
くりけれ。いまはうちとけて手づからいゐ
(飯匙)  (真名伊勢物語に「 」子の器とかけり家人なと也
がひとりて、けこのうつはものにもり
   (男の見かきる心也)
けるをみて、心そがりていかずなりにけり
* 成ゆかんなど云心なる
  べし。大和物語にも
  あしからじよからんとて
  ぞわかれけめ。あか
  難波の浦は住うき
  なとよめる人の心も
  この心也。此段の心を
  業平の心浅きには非ず
  女を憐愍の心なるべし
 かうちの国たかやすの
  此高安の女の旧説を
  中将の垣内とて今も
  あるかし長明貫名
  抄にあり
 いとようけさうじて
  玄こゝは身をつくろふ
  ているるべし。女は身を
  もてつくろふも夫の
  ため也師詩経云自伯
  之東如飛蓬豈無膏休誰適為容。女の脂粉は男ある身の礼義也
 風ふけはおきつしらなみ玄古今に此うたことぞうきを長くと書*