(玄此うたを評していふ也田舎人にては子細なくよみしと也)
ゐなか人のことにてはよしやあしや
卅四
むかしおとこつれなかりける人のもとに
 いへばえにいはねばむねにさはがれて
 こゝろひとつになげくころかな
おもなくて、いへるなるへし
卅五
むかし心にもあらでたえたる人のもとに
 玉のをゝあはをによりてむすべれば
 たえてののちもあはんとぞおもふ
卅六   (師なんめりとよむ、なりけりと也)
むかしわすれぬるなめりととひこと
しける女のもとに
* き江なり。落葉もつも
  り草もりてみえぬ江也
  真実の下の心を何として
  さては知へきそさりと
  ては浅くみたるを哀
  深き心を見はやと也玄同
 いへばえにいはねば一いへはえに
  とはいはんとすればえいは
  ずと也肖心はいはんとすれ
  ばいはれず。扨いはねは又胸に思ひの切なる心也師とふうたに心一つになげくと也
  玄詞書を心にをきて此うたを見るへし惟同定家公御引歌いへはえにふかく悲しき奥に注
 おもなくていへる一おもなくては面目なけれともいふ心也玄此つれなき人に何とよみて
  やるともなびくべきにあらずと思へども面つれなくいふと也
 心にもあらで
  我心と中絶たるには
  あらぬ也思ひの外と同
 玉のをゝあはを惟玉の結
  とは命をもいへど、是は只
  緒也。あはをとは合せ
  たる緒也。堅くより合
  せてよりたる緒は引は
  なせどもやがてもとの*
 谷せばみみねまではへる玉かづら
万葉
 たえんと人にわがおもはなくに
卅七
むかしおとこいろごのみなりける女に
     (心もとなき心也)
あへりけり。うしろめたくや思ひけん
 我ならでしたひもとくな朝がほの
 ゆふかげまたぬ花にはありとも
返し
 ふたりしてむすびしひもを独して
万葉
 あひ見るまではとかしとぞ思ふ
* ごとくよれあふて絶
  果る事なし。其ご
  とくにたえてのち
  も又あはんと也玄同
 谷せばみみね肖此歌は万葉に谷せばみ峯にはひたる玉かづらたえんの心
  わがおもはなくにといへる歌を少かへてかけり。心は只たゆまじきと云儀也。上は
  序歌也。是も作物語也師忘れぬるかと問に付て峯迄はへつるごとく絶まし
  きとの心也。万葉に此上句にてはへてしあらば年にこゆともと云もあり。又ゆふつゝ
  みしらつき山のさねかつらたえんと妹に我思はなくにともあり
 いろごのみなる女肖好色
  にてあたあたしき女也
  たれともなし
 我ならて玄夕かげまた
  ぬとは女のあだなるを云。
  我ならで人にちぎる事。
  夕陰またずしてかはる
  やうには有ともといへり
  一花のさゝをひもとくと
  いへば朝顔にそへて読也
 ふたりして祗男のうた
  かへは陳じて云心也。我心一
  にてはちきりを変ず*