四十四 (玄田舎へ下る人也有常か事也諸抄同) むかしあがたへゆく人に、むまのはなむけ せんとてよびてうとき人にしあらざり (玄家童子我妻をいふ一同) ければ、いゑとうしにさかずきさゝせて女の (肖裳唐衣なるへし) (業平也) さうそくかづけんとす。あるじの男うた (ン)(一裳の腰にうたよみて結付なり) よみでものこしにゆひつけさす (女にかはりて業平のうた也) いてゝゆく君がためにとぬぎつれば 我さへもなくなりぬべきかな このうたはあるがなかにおもしろけれ ば、心とゞめてよます。はらにあぢはひて * 師此歌女の心をむとは読 ながら猶疑ひ恨る心有也 むまのはなむけ 玄餞。旅行の人首 途を祝ひ、酒のませ物 などをくる事也 うとき人外人白氏文集 玄業平は有常か聟 なれはうとき人にもあら ずといふ いてゞゆく君が玄出て行 人のために裳をぬぎて やれば我さへ裳がなくな ると也もは喪の字也 喪の字をわさはひと よめり衣裳の裳なき といふを以禍なくと云 心を読り。人によき事をあたふれば我にもよき事あり。陰徳陽報なり 万葉五霊剋内の限は、平けく、安けくもあらんを、事もなく、裳なくもあらん を、世のなかのうけくつらけくとありもなくに裳の字をかけり このうたはあるかなかに師業平の歌おほき中にわきて面白けれは随分に こゝろをとゝめて女によませたりと也女の代作によまれし心也* 四十五 むかしおとこありけり。人のむすめの (玄いつきかしつくむすめ也) かしづくいかでこのおとこに物いはんと (いひ出かたき也) 思ひけり。うちいでんことかたくやあ (肖物おもひのやまひとなる心也) りけん。物やみになりてしぬべき時 (なりひらにあはまほしくこそおもひしと也) に、かくこそおもひしかといひける (業平へ告し也) を、おやきゝつけてなくなくつけ (急きおはしたる也) たりければ、まとひきたりけれどしに (肖忌にこもる也我故死たる人なれ) ければつれつれとこもりをりけり。時は (は義をたかへぬ心也) みな月のつごもり、いとあつきころ ほひに、よひはあそびをりて、夜ふ (惟六月晦日なれははや秋かせも音つるゝ也) けてやゝすゞしきかぜふきけり (玄あとやらん風情おもしろきことば也) ほたるたかくとびあがる。この男 *はらにあぢはひて 師ふかく腹中に吟味 してよみしとの心也 うちいでんことかたく 詞にうち出いふ事し かたき心也さゞれ石の 中におもひはありなが らうち出る事のかた くもあるかな かくこそおもひしかといひ 玄此むすめのめのと などやうものにさんげ するなるべし。それを 女の親の聞つけて業 平へ御出有て御覧 じて給はれといふに頓て 業平のまどひきたれ ともはやなくなる也 よひはあそひ 一愁の中にあそぶへきに*