こむといへり、 よろこびて、 まつに、 たびく過ぬれば
  君こんといひし夜ことに過ぬれは
  たのま○ [朱め] ぬものゝこひつゝそふ○ [朱を] る 
といへり (世本いひ) けれど、 おとこすまず、 なりにけり
第二十五
昔、 男、 かたゐなかに、 すみけり、 おとこ、 宮づかへし
にとて、 わかれおしみてゆきにけるまゝに、 三とせ
こざりければ、 まちわび○たりけるに、 いとねんごろ
にいひける人に、 こよひあはんと、 ちきりたりける
に、 この男きたりけり、 この戸、 あけたまへと、 たゝき
ければ (世本ど)、 あけでなん (世本なん二字ナシ)、 うたをな○ん○、 よみ〈ン〉ていだしたりける
  あらたまの年の三とせをまちわひて
  たゝこよひこそにゐまくらすれ

といひ、 いだしたりければ、 をとこ (世本をとこ三字ナシ) 
  あつさ弓まゆみつきゆみとしをへて
  わかせしかことうるはしみせよ
といひて、 いなんとすれば (世本としければ)、 うらみて (世本うらみて四字ナシ)、 女
  あつさ弓ひけとひかねとむかしより
  心はきみによりにしものを
といひけれど、 男かへりにけり、 女いと、 かなしう (世本く) て、 
しりにたちて、 をひけれ (世本ゆけ) ど、 えをひつがて、 し水
のある所に、 ふしにけり、 そこなる (世本なりける) 岩に、 をよびの、 
ちして、 かきつけゝり (世本る) 
  あひおもはてかれぬる人をとゝめかね
  わか身はいまそきえはてぬめる