第八十三 むかし、 いとわかきおとこ、 わかき女を、 あひいへりけり、 をのくおや有ければ、 つゝみて、 いひさして、 や○み○ に○けり、 年ごろへて、 女の方より、 [朱猶] この事とげんといへりければ、 男、 (世本おんなのもとに、 猶こゝろざし、 はたさんとや思ひけん、 男――) うたをよみ〈ン〉で、 やれりけり、 いかゞ思ひけん (世本ナシいかゝ思ひけん) 〈新古〉いままてにわすれぬ人は世にもあらし をのかさまくとしのへぬれは と、 (世本て) いひて、 やみにけり、 男、 女の (世本男も、 女も)、 あひはなれぬ、 みや づかへになん、 (世○本○いで) たちに○ [朱り一本] ける 第八十四 昔、 男、 津の国むばらのこほり、 あしやの里に、 しるよし (世本して) ありけ○り○ [朱て] 、 いきてすみけり、 昔のうたに 〈新古〉あしのやのなたのしほやきいとまなみ つけのをくしもさゝて (世本す) きにけり と、 (世本よみける、 そこの里をよみける) よめるは、 この里をよめるなり、 こゝをなん、 あしやの なだとはいひけり (世本る)、 此男、 なま宮づかへしければ、 それ をたより (世本にて二字アリ)、 ゑぶのすけども、 あつまりきにけり、 こ の男の、 こ○の○か○み○ [朱あに] も、 ゑぶのかみ成けり、 その家のま○へ○の○、 海のほとりに、 あそびありきて、 いざ、 この山のうへ (世本かみ) に、 ありといふ、 ぬのびきの瀧見に、 のぼらんといひて、 のぼりて見るに、 そのたき、 物よりことなり、 たかさ廿 (世本ながさ廿丈、 ひろさ五丈はかりなる) 余丈ばかり、 ひろさ、 五丈 (イ尺余) [朱一本余] ばかりあ (世本な) る、 石のおもてに、 しろききぬに (世本しらぎぬにいはを――)、 いし (世本は) を、 つゝみたらん (世本あらん――) やうになん、 有 ける、 さる瀧のかみに、 わらふだばかりにて (世本わらふだの、 おほきさして、 さし出――)、 さし出たる いしあり、 その石のうへに、 はしりかゝる水は○、 せう [朱くり一本] かうじ、 (イ○ばかり) く○り○のおほきさにて、 こぼれおつ、 そこなる