なり。そのうへわがをつと。官につかへて。他国へゆきたまひたれば。あさゆふの願に。 をつとの官事をよくつとめたまひて。みだりなる心なく。身をただしくして。古郷 へ帰たまひ。われもまた。よこしまなる心なく。家のいとなみをつとめ。しうとめに 仕奉て。夫の帰たまふを。待うけ申さん事こそ。のそむ所にて侍れと。いといさぎよく いひ放ちければ。秋胡子もかなはじとおもひ。せんかたなくて。立別れ。わが家へ帰ぬ。さて もちてきたりしこがねを。母の前へいだしおくり奉り。妻にも見せよろこばせん とて。よびいだしけるに。その妻をみれば。かのみちのほとにて。くわをとりてゐたりし 女なり。秋胡子おどろき。はづかしくおもひたるさまにて。しばしものをも。え いはざりければ。妻いひけるは。御身われをむかへたまひて。五日めに旅だち行て。五 年の間。をやのやしなひをもかへりみず。官につかへ。たくはへきたりしこがねを。路の ほとりの女に。たやすくあたへんとしたもふは。これ色にふけりて。をやをわすれ たる。不孝不義の人なり。かかるあさはかなる。人としらずして。五年の間節義を まもりしも。せんなき事になりぬれば。われは此家をいづべし。御身は又他の妻を むかへたまへとて。つゐにふかき川におもむき。身を投うせ侍りけるとなん 曹大家女論語図會終