等義経公に叛なば頼朝の履を取るべし堅く心
に忘るべからずとてむなしくなりぬ頼朝はた
して安衡兄弟に義経を討へき御教書を下せり
兄弟五人相議して義経に叛かんとす三郎忠衡
席に進て言此事努々有べからず一度主君と仰
ぎ且先考の御遺言なを耳に残れり不忠不孝の
くわだては国家滅亡の端ならん唯一向に御遺
言に従べしといふ四人の者は義経を討て鎌倉
の恩賞に預らんとす忠衡日しからは不義不忠

の者は兄弟とても何かせん唯今よりは敵なり
とて坐を立て返る安衡相議して先忠衡を討べ
し其後義経をも討べしとて三千余人をして忠
衡の館におしよせたり忠衡は寡兵にて防戦す
れども大軍に敵しがたく郎等もおちうせて纔
に二十七人にて防戦しけるが悉く戦死す忠衡
妻に向ていづれへなりともおつべしといふ妻
は妾が命いきて何かせん君の為夫の為忠を尽
し節を守りて死せんと思ふなりと則鎧を着し