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(奈良女子大学学術情報センター蔵)

土左日記創見     ここに公開する『土左日記創見』は、江戸時代後期、文政六年(一八二三)に成立し、天保三年(一八三二)に刊行された、香川景樹の手になる『土左日記』注釈書である。
 香川景樹(一七六八〜一八四三)は、『古今和歌集』を理想と仰いで作歌に励み、「桂園派」と呼ばれる一派を立て、高く評価された歌人であるが、他方、古典の研究においても、本書をはじめ、『古今和歌集正義』『百首異見』など優れた業績を上げている。

 『土左日記創見』は、その香川景樹が、歌人であるとともに古典学者でもあった自身の特質を生かした、『土左日記』注釈史上に残る業績である。底本に季吟の『土佐日記抄』を用い、対校するに善本を得がたかった状況にあったこともあり、現在の水準から見て、明らかに誤りと考えられる点もありはするが、作品全体を視野に入れて文意を理解しようとする姿勢、作者貫之の創作過程に踏み込んで文章を読解しようとする態度をもって進められる解釈からは、今もなお学べるところ、学ぶべきことは多い。
 例えば、一月七日条に見える、「わらは」の詠んだとされる「ゆくひともとまるもそでのなみだがはみぎはのみこそぬれまさりけれ」という歌のなかの「なみだだは」について、「みぎははまさる」という表現の例を貫之の二首の歌から引き、その造語であった可能性を指摘し、『土左日記』所載歌の意味を考え直す必要性を示唆しているのである。
 かくて、難解な箇所を切れ切れに解釈するだけの江戸時代以前の作品理解と、作品全体に対して評価を下して細部までもその視点からだけ説明し済ませようとする現代の解釈との間にあって、全体と部分との均衡の取れた考察の姿勢を示すことによって、本書は、いまも、古典文学を学ぼうとする人にとって、現代の諸注釈を学んだ後、より深い研究を進めるための優れた手引となるものだと考えられるのである。

文学部教授 奥村 悦三
上之本
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上之末
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下之本
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下之末
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附録
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『土左日記創見』翻刻(奈良女子大学プロジェクト経費「『土左日記創見』の基礎研究」報告) PDF

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