ファージの形質導入

ファージの力価(タイター)測定
 外来遺伝子をクローニングするためのベクターとして、λファージ由来のファージ・ベクターがよく用いられる。ファージ粒子に組み込まれる最大、最小のDNAサイズが決まっており、7〜20kbの大きさの外来DNAをクローニングすることができる。ファージの感染した大腸菌はプラークを形成するが、スクリーニングを行う前にあらかじめ、ファージの感染率すなわちファージ溶液中のプラークを形成できるファージの数を知る必要がある(タイトレーション/力価)。
準備:
大腸菌: XL1-Blue MRA(P2)
LB液体培地+10 mM MgSO4
NZY培地(1% NZ amine, 0.5% Yeast Extract, 0.5% NaCl)
SMバッファー(50mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl, 7mM MgSO4, 0.01% Gelatin)
TOPアガー培地(NZY, 0.7% agarose)
10 mM MgSO4

方法:

  1. ホスト大腸菌をLB液体培地+10 mM MgSO4 3mlに植え付け、37℃で一晩振とう培養。
  2. 前培養した菌液を20ml LB液体培地+10 mM MgSO4へ植え付ける。(20ml/ 300mlコルベン)、37℃、4〜6時間(OD600<1.0)
  3. 2000rpmで10分間遠心集菌する。
  4. 10mM MgSO4を加え、穏やかに混ぜる。その後、OD600=0.5の菌液を作成する。(ホスト大腸菌溶液)
  5. 次にファージの希釈溶液を作成する。ファージ原液をSMバッファーを用いて10倍希釈系列を作成する(ファージ希釈液)
  6. 1μlのファージ希釈液を200μlのホスト大腸菌溶液へ加え、37℃で15分間培養する。(ファージを感染させる)
  7. 暖めておいたNZY培地(9cm丸型シャーレ)にファージ+大腸菌を注ぐ。
  8. すぐに50℃まで冷やした3mlのTOPアガー培地をその上に加え、プレートを揺することにより、手早く混ぜる。
  9. 37℃で8〜12時間培養し、プラークの数を数えてファージ原液のファージ数を算出する。
プラークハイブリダイゼーション
ファージのゲノムDNAライブラリーから遺伝子をスクリーニングするためには、力価のわかっているファージ液を大腸菌に感染させ、プラークを形成させて、メンブレンに転写した後、サザンハイブリダイゼーションによって目的のファージを選択する。

方法:

  1. 力価測定方法の(1)〜(4)までを行う
  2. ホスト大腸菌溶液を500μlずつ入れた50mlチューブを培地分だけ用意する。
  3. 10μlのファージ希釈液を500μlのホスト大腸菌溶液へ加え、37℃で15分間培養する。(ファージを感染させる)
  4. ファージ+大腸菌液に50℃まで冷やした7mlのTOPアガー培地を加え、手早く混ぜる。
  5. ただちに、NZY培地(角型、100 x 140 x 9 mm)に注ぎ、均一に広げる。
  6. 37℃で8〜12時間培養する。
プラーク・リフティング(プラークのナイロンメンブレンへの写し取り)
 プレート培地に生えたファージのプラークを相対的な位置を変えないようにナイロンメンブレンに写し取る(トランスファー)ことをリフティングという。ナイロンメンブレンは変性液で処理され、ファージ粒子を壊すと同時にDNAをアルカリ変性によって一本鎖にし、サザンハイブリダイゼーションに用いられる。
準備:
変性溶液(1.5M NaCl、0.5M NaOH)
中和溶液(1.5M NaCl、1.5M Tris-HCl (pH 7.5))
2X SSC
ナイロンメンブレン(Genescreen plus, NEN)
ピンセット

墨汁

方法:

  1. プラークが均一に分布している培地を冷蔵庫に入れて、TOPアガーをしっかりと固める。
  2. ナイロンメンブレンをシャーレの大きさに切る。
  3. 2本のピンセットを用いて、培地の表面に気泡が入らないように静かに乗せ、そのまま、3分間静置する。
  4. メンブレンに墨汁をつけた針を非対称に4カ所突き刺してマークする。
  5. ラップフィルムを敷き、変性溶液、中和溶液を1mlずつ滴下する。
  6. ピンセットを用いて、メンブレンを角から静かに剥がす。
  7. メンブレンを裏返し、培地と接していた面を上にして変性溶液に置き、3分間静置する。
  8. 乾いたペーパータオルで余分な液をぬぐい、中和溶液に置き、3分間静置する。
  9. 乾いたペーパータオルで余分な液をぬぐい、2X SSCにつける。
  10. 乾いたペーパータオルで余分な液をぬぐい、ラップフィルムを敷いた320nmの波長のトランスイルミネーターにDNA面を下にして置き、2分間紫外線をあて変性したDNAをメンブレンに結合させる。
  11. 培地はラップフィルムに包んで、4℃で保存しておく。
  12. サザンハイブリダイゼーションの作業へ。
陽性シグナルを示すプラークの単離
 サザンハイブリダイゼーション終了後、ライトボックスに4℃に保存しておいた培地とX線フィルムを置き、X線フィルムの陽性シグナルに対応するプラークをパスツールピペットで打ち抜き、SMバッファーに移す。さらに目的のクローンを確実に単離するために、通常は2次スクリーニングを行い、ファージDNAを調整する。