都市についての俗説




食い倒れの大阪−−これはものすごく有名だ。食い倒れ人形はテレビにもよく登場する。京都は着倒れ、これも有名である。神戸は履き倒れ、と聞いたことがあるが、本当だろうか。
 で、ますます怪しいのが、奈良の寝倒れ、である。その昔、奈良女子大学に赴任したばかりのとき、大阪出身の年輩の先生に飲み屋で聞いた。食べる、着る、履くに対して、寝るということだろう。寝るのに凝っているのではなく、寝てばっかりというニュアンス。いささか失礼な言い方ではないのか。とはいえ、商店街が閉まるのはたしかに早い。のんびりしている。奈良については、普請倒れというのも聞いた。総じて門が立派なのだ。これは住宅地を歩いてみればわかる。
 根拠もないような話を、いくらネタに困ったからとはいえこんなところに書くのは、不謹慎かもしれない。で、インターネットで調べてみた。履き倒れは、私は神戸の特徴として聞いていたが、東京や名古屋についても言うそうな。奈良の寝倒れ、たしかに出てきた。
 かつて、文化人類学者祖父江孝男さんの『県民性』という本が話題になった。私が今ネタにしたのも、この県民性論の一部だろうか。でも、「県」ではなさそうだ。県ではなくて都市が、外からどう見られているか、あるいは自らをどう見ているか、これもなかなか興味のある題材ではないか。とはいえ、研究領域のまったくかけ離れた素人が、やったらおもしろいのにと言っているだけで、すでに研究されているかもしれない。「探偵!ナイトスクープ」あたりでも取りあげられたかもしれない。県民性論や国民性論にたいして、都市性論? 都市についての俗説研究?
 “倒れもの”にかぎらず、都市についての俗説・世間知といったものを、他者の評価のため、自分の行動の正当化のために、われわれはさまざま駆使しているに違いない。血液型についての俗説を自分の行動の正当化に使ったりするように。−−私の血液型は世の中ではもうひとつ評判が悪い。で、私は、逆に、非難を受けた行動を血液型のせいにしてなんとかその場をしのごうとする。すると、周りも妙に納得する・・・。都市についての俗説も調べるとおもしろいのではないか。


(中島道男 なかじま みちお 理論社会学)