統計にみる奈良の特性 いまから2年余り前、私が本大学に赴任した当初のころの、奈良の第一印象は、歴史的なネームバリューの割に「小ぢんまり」した町というものでした。一方、その小ぢんまり感と表裏の関係にあると思われた閉鎖的な雰囲気は感じられず、予想したよりも「開放的」な印象も受けたのも記憶しています。このような一個人――しかも近年まで完全な外部者 ―― による印象がはたして裏づけることができるのかどうか、統計データによって少し調べてみました。奈良県統計課のホームページの中に「100の指標からみた奈良県勢」というサイトがありましたので、そこから奈良の特性をいくつかピックアップしてみましょう。 まず「小ぢんまり」を示す指標として、【可住地面積割合】は全国都道府県の中で43位、また【可住地面積】そのものは最下位でした。【人口密度】は14位とやや上位に位置しており、狭いスペースに密集しているようにも思えますが、【持ち家比率】が11位と上位であることから、アパートや団地のようにいかにも「密集」という印象ではなく、「小ぢんまり」というように映るのかもしれません。 次に、「開放性」を直接示すような指標はありませんが、それが形成される素地となるようなものとして、【人口転出率】が5位、【昼間流出人口比率】は2位、【県外就業率】は1位と、人々が地域外(とくに京阪大都市圏)に出る割合は非常に顕著であることがうかがえます。先の「開放性」という特性が意味するのは、主に奈良への流入者に対してのものですが、この統計が示しているのは、奈良県民自身が流出している傾向ですので、必ずしも結びつくものではありません。しかし、地域外の他者と接する機会が多いという特性から派生した結果として、開放的な気質が形成されるのだとしたら、うなずける部分もあるでしょう。 さらに、通学や通勤に伴う流出者が多いことに着目するならば、その流入者が多い地域に比べると、「小ぢんまり」した特性は維持されやすいと考えられます。観光を目的とした奈良への来訪者は多いとしても、それが集中する地区や時期が限られていることも、一因かもしれません。 冒頭で紹介しました奈良に対する第一印象が、なんとなく裏づけられたようにも見えますが、この私の印象は、近鉄奈良駅から女子大に至る通勤の道のりに強く影響されていますから、実は奈良県全体の統計データでは若干の齟齬があることをお断りしておきます。もっと詳しい統計を調べてみたいとお思いの方は、上記の奈良県統計課のホームページにアクセスしてみてはいかがでしょうか。 追記:同僚の中島氏が以前ここに書いたエッセイで「寝倒れ」という俗説について触れられていましたが、県勢データによると、【就業率】が46位とそれを支持するような統計が示されていました。ただし、奈良県民が非活動的かと言えば、必ずしもそうではないようです。たとえば、【海外渡航者数(人口千人当たり)】は4位、【新聞頒布数(1世帯当たり)】が1 位、【ピアノ所有台数(千世帯当たり)】は2位と、仕事より文化的活動に重点を置いたライフスタイルが見受けられます。 (林 拓也 はやしたくや 社会学) |