研究内容

本プロジェクトを構成する6つのサブテーマそれぞれの研究内容や関係する研究者を図表や写真を交えて紹介します。

サブテーマ1

課題名
GOSATデータ利用手法の開発と人工衛星データの複合的解析
研究分担者
林田 佐智子(奈良女子大学理学部・教授)
久慈 誠(奈良女子大学理学部・准教授)
研究協力者
杉田 考史(国立環境研究所・主任研究員)
八代 尚(理化学研究所・研究員)
概要
大気中のメタン濃度は季節や場所によって大きく変化する。そのため、従来から行われてきた空気を直接採取して分析する方法ではその変化を十分に把握できず、サブテーマ6で用いるような大気輸送モデルの精度を律速する要因であった。しかし、2009年にわが国が打ち上げた人工衛星「GOSAT」(和名は「いぶき」)に搭載されているTANSO-FTSセンサーによって赤外線を使って大気中のメタン濃度を推定することが可能となり、全球レベルのメタン研究への応用が期待されている。そこで、本サブテーマでは、サブテーマ6へのデータ提供を主たる目的として、TANSO-FTSセンサーの測定値の解析を通して、メタン発生量推定の精緻化に資する情報を提供する。
GOSAT/SWIRでは情報不足:現地観測データを追加することが必要 さらにモデルによる統合によって発生量の推定を目指す

サブテーマ2

課題名
南アジアを中心とした大気メタン濃度計測
研究分担者
寺尾 有希夫(国立環境研究所地球環境研究センター・主任研究員)
概要
国立環境研究所が実施してきたインド山岳地帯・ナイニタールおよびバングラデシュ水田地帯・コミラでの大気サンプリングに加え、北インド・ソーニーパットでの大気サンプリングを行っている。現地の協力者によって週に1回の頻度でガラスフラスコに採取された大気試料は、国立環境研究所に返送されて、その温室効果ガス濃度の高精度分析が行われる。
また、バッテリで駆動するサンプリングシステムを開発し、サブテーマ3、4、5が実験を行っている南インドのTRRIにおいても大気サンプリングを行い、大気中メタン濃度の分析を行っている。
インド山岳地帯・ナイニタールの観測サイト(ARIES)インド山岳地帯・ナイニタールの観測サイト(ARIES)
バングラデシュ水田地帯・コミラの観測サイト(バングラデシュ気象局)バングラデシュ水田地帯・コミラの観測サイト(バングラデシュ気象局)
北インド・ソーニーパットの観測サイト(農家)北インド・ソーニーパットの観測サイト(農家)
南インド・TRRIにおける大気サンプリング南インド・TRRIにおける大気サンプリング

サブテーマ3

課題名
メタン発生緩和策のオプション検討
研究分担者
須藤 重人(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター・上級研究員)
研究員
Aung Zaw Oo(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター・特別研究員)
研究協力者
大澤 剛士(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター・主任研究員)
小野 圭介(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター・主任研究員)
概要
水田はメタンの発生源であるが、適切な水管理等により収量を維持したまま発生量を削減できる技術が開発されつつある。その成果に基づいて、本課題では、南インドの自然条件や耕作法に適合する緩和技術を開発・実証し、地理情報を活用して南アジア域への適用性と削減効果を評価する。さらに、サブテーマ6と共同で、この緩和策を適用した際の大気メタン濃度への影響を明らかにする。
TRRIでの圃場試験の様子TRRIでの圃場試験の様子
チャンバー法によるメタンフラックスの測定を実施中。
Alternative Wetting Drying(AWD)と呼ばれる水管理を行った場合の水田の水位変化の模式図Alternative Wetting Drying(AWD)と呼ばれる水管理を行った場合の水田の水位変化の模式図
AWDでは、地表面下10cm程度まで水位が下がった段階で灌漑を実施する。CTは従来の常時湛水による水位の変化。

サブテーマ4

課題名
南アジア域におけるメタンフラックスの測定
研究分担者
犬伏 和之(千葉大学大学院園芸学研究科・教授)
間野 正美(千葉大学大学院園芸学研究科・助教)
概要
インド南東部のタミルナドゥ州における稲研究所(Tamil Nadu Rice Research Institute、TRRI)のフラックス測定地点において機器を設置し、微気象的手法によるフラックスの連続測定を開始している。タミルナドゥ周辺の作付け体系における稲作の周期に合わせて、小型チャンバー法によるメタンフラックスの測定も実施している。得られたデータを他のサブテーマに提供している。
タミルナドゥ稲研究所(TRRI)での調査 試験水田に設置したフラックスタワーと計測機器(2016年6月に測定開始)
タミルナドゥ稲研究所(TRRI)での調査
試験水田に設置したフラックスタワーと計測機器(2016年6月に測定開始)
タミルナドゥ稲研究所(TRRI)での調査 試験水田での小型チャンバーによるガス採取(2016年5月)
タミルナドゥ稲研究所(TRRI)での調査
試験水田での小型チャンバーによるガス採取(2016年5月)
タミルナドゥ稲研究所(TRRI)での調査 タイムラプスカメラを用いた水稲体バイオマスの連続モニタリング 
タミルナドゥ稲研究所(TRRI)での調査
タイムラプスカメラを用いた水稲体バイオマスの連続モニタリング
バングラデシュ農業大学(BAU)での調査 BAU試験水田での土壌採取(中央が犬伏、その左がBaten教授、2017年1月)バングラデシュ農業大学(BAU)での調査
BAU試験水田での土壌採取(中央が犬伏、その左がBaten教授、2017年1月)

サブテーマ5

課題名
レーザー分光手法によるメタンの連続観測
研究分担者
山本 昭範(東京学芸大学自然科学系・講師)
概要
大気メタン濃度の正確な評価には、大気サンプリング等による高精度の観測に加えて、連続観測による変動パターンの解明が必要である。しかし、手動の大気サンプリング等では、日変化などの短期的な時間スケールにおける大気メタン濃度の変動を明らかにすることは困難である。レーザー分光手法による観測は、大気メタン濃度などの連続観測に適した手法の一つである。本課題では、近赤外光(λ=1.65μm)を用いたオープンパスの分光測器のレーザーメタン計(LaserMethane®、東京ガスエンジニアリング株式会社・アンリツ株式会社)によって世界ではじめて南インドにおける大気メタン濃度の詳細な時間変化を明らかにしようとしている。連続観測データは、短期的〜長期的な時間変化パターンの解明だけでなく、大気サンプリング等によって得られた大気メタン濃度の代表性の検証においても非常に重要である。
TRRIにおける測定の様子。小屋の中のレーザーメタン分析計と約50 m離れた反射板との間の平均的なメタン濃度を測定する。
TRRIにおける測定の様子。小屋の中のレーザーメタン分析計と約50 m離れた反射板との間の平均的なメタン濃度を測定する。

サブテーマ6

課題名
インバース解析によるアジアからのメタン発生量の推定と削減策の評価
研究分担者
Prabir K. Patra(海洋研究開発機構地球表層物質循環研究分野・主任研究員)
概要
大気は地球を連続的に覆っているため、たとえば日本上空のメタン濃度やその鉛直分布の成り立ちには、地球表面のメタンの出入り(フラックス)、大気の動き、さらには大気中での反応が影響している。研究分担者は、これらを全球レベルで計算し、さらに逆推定(濃度データから地表面でのメタンのフラックス)も可能な数値モデルを開発してきた。本プロジェクトでは、その研究をさらに発展させ、モデルの改良や測定データの追加によって南アジア域のメタンの動態の再現性の向上を図るとともに、サブテーマ3で提案されるメタン削減策が大気メタン濃度に及ぼす影響を評価する。
大気輸送モデルを用いて地表面メタンフラックスを逆推定する53領域(出典:○○○○○○)
大気輸送モデルを用いて地表面メタンフラックスを逆推定する53領域(出典:P.K.Patra et al.,2016)