理数講義プログラムIII 「新しい薬をどう創るか −医薬品のデザイン− 」
講義後のアンケートに寄せられた質問に対する、仲西先生からの回答です。
Q.同じ薬を長い間服用すると、効き目が弱くなるというのは本当ですか?
A.これは本当です。理由(ケース)は幾つかあります。一つは、薬を分解(代謝)する酵素が肝臓の内部に増えてくることによるものです。薬は人間にとっては異物になりますので、からだはそれを排出しようとします。効率よく排出するために肝臓内で特定の酵素が働くのですが、長期にわたるとその酵素がたくさん作られるようになります。酵素の種類によっては、服用していなかった別の薬に対しても作用して、最初から効きにくいということもおこりえます。

 別のケースとして、細菌に対する抗生物質や、ウィルス(エイズやインフルエンザなど)に対する抗ウィルス剤が効かなくなることがあります。これは長期にわたり服用すると細菌やウィルスなどの微生物が変異を起こし、薬が作用していた酵素の形を変えてしまうことに起因します(先日の講義では丸と四角の鍵穴の形が丸と丸に変わってしまうようなものです)。これを薬剤耐性というのですが、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染が一時話題となっていたことがご記憶にあるのではないかと思います。MRSAには従来の抗生物質は効かなくなります。

 2番目の例は長期服用という観点から少し意味合いが異なりますが、身近でおこることですので充分注意していただいたほうがよいと思います。例えば、風邪を引いた時に肺炎の予防の意味をかねて抗生物質が処方されることがありますが(基本的に風邪のウィルスに抗生物質は効きません)、1〜2日服用し風邪が治ったと思い処方された抗生物質の服用も途中でやめると、薬剤耐性を誘発する可能性があります。薬、特に抗生物質あるいはタミフルのような抗ウィルス剤は医師・薬剤師の指導に従い最後まで飲みきるようにしてください。

Q.副作用がなぜ発生するのかを、もっと聞きたかったです。
A.薬の分子は特定の酵素や受容体に強く結合するようにデザインされています。しかし、その結合関係は1対1にはならず、程度の強弱はありますが鍵穴の形の似た別の働きをする酵素や受容体にも結合してしまうものなのです

 その例の一つが、花粉症の薬である抗ヒスタミン剤です。この薬はヒスタミンの受容体に結合し、ヒスタミンという生理活性物質の作用を抑えます。ヒスタミンには鼻水を出させるという働きがある一方、脳内では覚醒状態を維持する神経伝達物質としても働いています。花粉症の薬である抗ヒスタミン薬は脳内のヒスタミン受容体にも結合してしまうため、服用すると眠くなってしまうのです。これが抗ヒスタミン剤の副作用です。他の薬剤の場合、のどが渇いたり、咳がでるという副作用が起こることもありますが、それも薬がそのような症状を起こす(主作用以外の)受容体に結合してしまうからです。

Q.シードからリードへ変換する具体的な方法(どうやって組み替えたりするのかなど)を知りたいです。
A.説明が少なかったので分かりにくかったものと思います。実際には、構造活性相関のデータやCADDによるシミュレーションをもとに少しずつ、時には大胆に分子の構造を変えていきます。これはケースバイケースで決まったやり方があるわけではありません。
Q.酵素や受容体を対象としない薬があるのでしょうか?
A.漢方薬は現代医薬品のような単一成分による切れ味鋭い薬効を出すものではなく、多種の複合成分の効果により疾患の治癒を目指すものです。しかしながら、各成分は何らかの酵素なり受容体に作用しているはずで、現在は漢方薬の各成分の標的タンパク質を見出し、それらの機能をより効果的に制御する単一成分の薬の開発が行なわれています。

 また、酵素や受容体を対象としない薬ということに関して、胃炎等で荒れた胃粘膜を保護する薬にスクラルファートと呼ばれるものがあります。これは胃の絆創膏と呼ばれるくらいのもので、直接胃粘膜に付着して胃酸から胃を守ります。従って、酵素や受容体を対象としない薬ということになります。

 この他に、疾患の治癒ではありませんが血管造影剤や胃検診のバリウムなどの診断薬も医薬品の部類に入ります。こうやって見ると酵素や受容体に作用する薬は、生体と化学的に相互作用しているのに対し、それ以外のものは物理的な効果によるといえそうです。