奈良女子大学文学部附属中等教育学校 公開研究会

数学科学習指導案

2002年11月22日(金) 13:55〜14:40
3年 「に」講座
指導者 数学科教諭 吉田信也

1.題材

作図ツールを利用した課題学習

2.目標

課題を追究することで,生徒自身が主体的,意欲的に学び,自らが数学を発見,創造する力を身につける。

3.題材観

本校では、1980年代よりコンピュータを利用した数学教育に取り組んできた。その中でも、1993年度以来、作図ツールGeometer's Sketchpad (GSP) を利用した幾何教育について研究・実践を積み重ね,以下のように成果を発表してきた。
1994年度における「非日常化」とは,日常の授業ではなかなかできない「数学する」授業を,作図ツールを利用することで集中的に行おうというものであった。*1
つまり,「授業の非日常化」であり,それは,

(☆) 生徒が主体的,意欲的に学び,生徒自らが数学を発見,創造する授業

を目指したものであった。
この課題学習は,毎年3年生(中学3年生)で実践していたが,授業としては,
作図ツールがもっとも効果を発揮する
作図ツールでなければできない題材を持ち込んでの
「点」としての授業
であった。
この「点」としての授業を「線」とすべく考えて実践したのが,1997年度における「日常化」である。これは,
教科書にほぼ従いながら
教科書にある例は,作図ツールの利用にあった形に変えて提示するなどの形で
教科書の内容を作図ツールで料理する
というものであった。*2

(☆)を目指すという点では,1993年度から一貫しているのであるが,1997年度は,作図ツールが有効である場面では可能な限り作図ツールを利用しようという試みであった。
つまり,「作図ツールの日常化」を追究したのである。
この実践の考え方は翌年以降も受け継がれ,特に円の学習のかなりの場面で作図ツールが利用されることとなった。
2000年度より,本校は中等教育学校として再出発したのであるが,以上のような実践も基礎にしながら,2001年度に6年一貫中等教育学校としての新カリキュラムを完成させ,2002年度より実施している。
その中で,3年の「代数・幾何 I 」では,上で述べた円に関するほとんどの授業を作図ツールを利用して行っている。そのために,本校独自のテキストを作成した(資料1)。
このような「日常化」を基礎として,仕上げに課題学習という「非日常化」を行うのが新カリキュラムである(もちろん,普段の授業に課題学習的要素を取り入れていることは言うまでもない)。このカリキュラムが,生徒にとって有効であるのかどうかを検証し,評価していくことが今後の課題である(資料2)。
以上のように,作図ツールを利用した日常の授業および課題学習は,本校数学科カリキュラムの中核をなすものであり,10年近い実践の積み重ねがある。今回の研究会では,この過去の研究・実践に加えて,次の2点もテーマに加えたい。
吉田の試みについては,以下の5.で述べる。

4.使用ソフトウェア

今回の授業では,愛知教育大学の飯島康之氏が作成したWindows上で作動する作図ツールのGeometric Constructor for Windows(GC/Win)をもとに開発された,Geometric Constructor for Java(GC/Java)を利用する。
GC/Javaは,ネットワークを通じてWebブラウザにダウンロードされ,ブラウザのウィンドウに埋め込まれて実行されるJavaアプレットである。GC/Javaの利点について,飯島氏は次のように述べている。
http://iijima.auemath.aichi-edu.ac.jp/gcjava/manual/gcwin_gcjava.htm

  • インターネット経由でホームページにアクセスするだけで使うことができる。
    (GC/Winは生徒用の機器すべてにインストールする必要がある。)
  • サーバで最新版に更新すれば,すぐに反映される。
    (GC/Winではインストールしなおさなければならない)
  • GC/Winよりも多少速度が遅いが(特に軌跡を多く残したとき),最近のPCならばほとんど気にならない。そして, GC/Winのかなりの機能が実現できている。
  • GC/Javaで表示できるようなコンテンツ(教材のページ)を作れば,世界中の誰もが使えるものとして提供できる。
    (GC/Winの場合,それを持っている人でないと使えない)
本研究会では,飯島氏の協力を得て,GC/Javaの特徴を生かした実践の1コマを公開する。

5.方法

※「に」講座の30人に挙手させたところ,家庭でインターネットに接続できる生徒は29人であった。

6.指導計画

全11時間

第一次(4時間)

第二次(3時間)

第三次(4時間)

第1時

第2時

第3時

第4時

7.生徒の実態

1学年120人の生徒を30人ずつ4講座「い」「ろ」「は」「に」に分割し,数学科2人,英語科2人の4人が横並びで授業を行っている。

現3年生は中等教育学校の一期生であり,「入学検査」ではなく「適性検査」によって入学している。そのためか,現4年生より上の学年とは違う面が多々ある。非常に活発に意見を表明したり,ユニークな生徒が多い反面,学力差は大きく,日常的な学習習慣や基本的学力が身についていない生徒もかなり見受けられる。
発想の豊かな生徒も多くいて,そのような生徒は「試験」の点数は悪くても,課題学習の条件変更・一般化においては大いに活躍している。
生徒は,2年の9月から半年間,幾何の授業において作図ツールGeometer's Sketchpad(GSP)を利用していた。また,本年度の週2時間の授業においても,4月から9月まではほとんどの授業でGSPを活用した。したがって,生徒は作図ツールの扱いには慣れており,通常の作図は自ら行うことができる。
研究のために,「ろ」「に」講座では10月末より,授業で使用する作図ツールをGSPからGC/Javaに変更した。若干の操作方法の違いのために,多少のとまどいはあるが,生徒は自由にGC/Javaを使いこなしている。

8.本時の学習指導

8−1 ねらい

8−2 【課題3】について

【課題3】の軌跡は円弧になる(図1)。教師が考えた条件変更・一般化には,以下のようなものがある。
図1 図2 図3
図4 図5 図6
図7 図8 図9

8−3 展開

評価の観点:[関]=関心・意欲・態度,[数]=数学的な考え方,[表]=表現・処理,[知]=知識・理解

学習活動 教師の主な発問と予想される生徒の反応
(●発問,○指示・説明,★生徒の反応)
指導上の留意点・評価の観点
導入 1.課題3を理解する。
【課題3】線分AB上に点Cを取り,
線分AC,CBを1辺とする正三角形
△ACD,△CBEを作る。
直線AE,BDの交点をPとする。
点Cが線分AB上を動くとき,点Pは
どのような軌跡を描くか。
2.ワークシート上で作図し,軌跡を予想する。



3.各班の予想を発表する。
○課題3を読み,内容を理解させる。






●ワークシートに条件を満たす点を何個も作図し,点Pの軌跡を予想してみよう。
○最初は各自で,その後,班の2人で相談しなさい。
★3つ目の課題なので,とまどうことなく作図するであろう。
○各班の予想を発表してもらいます。
★円,円の一部,弧,丸いもの,曲線など。






[数]条件通りに作図して,軌跡を予想できるか。







■発表結果はホワイトボードに板書し,他の班の意見を聞いての意見の変更も認める。
展開 4.GC/Javaで課題3を作図し,各班の予想を検証する。

5.予想の検証の結果を発表する。







6.各班で,軌跡が円(の一部)であることを確認する方法を考える。









7.各班から,確認する方法を発表する。
○本校のホームページからGC/Javaを立ち上げて課題3を作図して,予想が正しいかどうか確認しなさい。
★正三角形の向きが逆になる班がでる。
★円だ。弧だ。本当に円かな?




○各班のGC/Javaによる実験・検証の結果を発表して下さい。
★円(の一部)だと思う。
★円(の一部)かどうかはわからない。
○円だと思う班と,円かどうかわからない班を,それぞれ挙手させる。
●Aさん,なぜ円だと思うのですか? B君,なぜ円かどうかわからないのですか?
●軌跡が円(の一部)であるかどうかを確かめるには,どうすればいいですか。
★GC/Javaを使っていいですか?
★点A,B,Pを通る円を描いてみればよい。
→△ABPの外接円を描く,各辺の垂直2等分線の交点(外心)を求めて描く
★線分ABを直線ABに変更して,軌跡を全部出現させようとする。
★証明しようとする。→行き詰まるか?
○GC/Javaで実験・検証した班には,その結果をプリントアウトさせる。
○各班で考えた方法とその結果を発表してもらいます。
★円を描いて確認した班がほとんどか?
[関]意欲的に課題3の作図と予想の検証に取り組んでいるか。

[表]条件通りに作図し,予想の検証に取り組めているか。




■ホワイトボードに板書し,他の班の意見を聞いての意見の変更も認める。




■ここで,次に考えている作業等を答えたたときは,その意見を取り上げる。
[数]軌跡が予想した曲線であることを確認する方法を考えることができるか。

■三角形の外接円が簡単に描けることを紹介する。




■学習記録はきちんと残すように指示する。
まとめ 8.次時からの学習内容について確認する。 ●先ほどの各班の発表で,円であることは納得できましたか?
●納得できた人も,納得できない人もいるでしょうが,これはちょっと置いておきます。
○次の時間は,いつも通りに課題3の条件変更・一般化をしてもらいます。
○家からインターネットに接続できる人は,家で考えてGC/Javaで作図し保存しておいて下さい。
■証明の前に,課題の条件変更・一般化を行う。
■新しい課題の軌跡も円になるものがあるので,なぜ円になるのか知りたいという気持ちが強くなる。
■これが,証明への動機付けとなる。

8−4 評価

(1) 評価場面・方法

本時の評価について,次の場面,方法で行う。

(2) 評価規準

本時の評価基準について,おおむね満足できる(B)を,次のように設定した。
関心・意欲・態度 数学的な考え方 表現・処理 知識・理解
課題の条件変更・一般化を行うことで,班で協力して課題を創り出そうとしている ・条件を満たす点をワークシートの上で作図し,軌跡を予想できる
・もとの課題や自分の創った課題の,「変換」の考え方を利用した証明を理解することができる
作図ツールで課題を作図し,実験して予想を検証・確認することができる 条件を満たす点の集まりとしての軌跡を理解できる

参考文献

*1 吉田信也・山上成美 「新しい幾何楽」 雑誌 教育科学『数学教育』(明治図書) 1994年10月号〜1995年3月号
*2 吉田信也・松本博史・山上成美・河合士郎・木村維男 「作図ツールの日常化を目指して」 奈良女子大学文学部附属中・高等学校研究紀要 1997年第38集