柳本古墳群と龍王山 〜冬の奈良を歩く〜

天理市の柳本には、多くの古墳が点在している。 3〜4世紀にかけて作られたとみられる100m超の前方後円墳が多数見られ、歴史好きにはたまらない土地である。 また、東にはかつて十市遠忠が拠を構えた龍王山がそびえている。これらをあえて冬季に歩いて巡るコースを紹介したい。

開始点はJR柳本駅。 ちょっと本数が少なめなので、あらかじめ電車の時間を確認しておくとベター。

駅を出ると案内板がある。

奈良で最も有名なハイキングコース「山の辺の道」がメインだが、ちゃんと柳本周辺の詳しい地図も載っている。

地図を参考にしつつ、まずは黒塚古墳へ。
この古墳は3世紀末に作られたとされる前方後円墳である。 副葬品として多数の三角縁神獣鏡が出土したとか。 古墳の隣にある黒塚古墳展示館でレプリカを見ることができる。
 ※休館日は月曜

続いて伊射奈岐神社と、その横にある天神山古墳へ向かう。 なんとこの天神山古墳、1960年の道路工事で東側が道路になってしまっているのである…。

近くの看板を見ると、前方後円墳が綺麗に縦半分になっているのがわかりやすい。
開発と保存を両立させる難しさを感じられるスポット。 (しかしながら半分になっている古墳というのも珍しいのでこれはこれで楽しめる)

伊射奈岐神社から東の方向を向くと、行灯山古墳(崇神天皇陵)がすぐそこに。
 ※天神山古墳を縦断している道路を渡ることになるが、この道路は交通量が多いので十分注意を!
 現在行灯山古墳は崇神天皇陵とされているが、実は幕末頃までは景行天皇陵とされていた。 なぜ見直されたのか、本当は誰のお墓なのか、疑問は尽きない。 周壕を含め全長およそ360mと大きく、近くでは写真に納まりきらないほど。 冬場であれば周壕に飛来したカモやオシドリなどを見ることもできる。

行灯山古墳の横手からは、龍王山へ続く道が伸びている。 龍王山へは、比較的傾斜が緩やかで距離の長い南回りルートと、傾斜が急で距離の短い北回りコースの2本がある。 おすすめは往路に南回り、復路に北回りを選ぶこと。 北回りルートでは補助ロープが必要なほどの傾斜と、岩がごろごろと敷かれた場所が見られ、降りるならまだしも上るのにはそれなりの体力がないと辛いと思われる。

南周りコースの最初は清流を横目に見ながらの緩やかな上り坂である。
景色を楽しみつつ登ることができる。





しばらく進むと、道の右側に石仏が現れる。
おそらく上部を欠損した六体地蔵であるとのこと。

この石仏を過ぎると、龍王山古墳群と呼ばれる円墳や横穴が多くみられるようになる。 6〜8世紀にかけての古墳というが、詳しい調査は行われていないらしい…。

一見するとただ地面が盛り上がっているだけのように見えるのだが、周囲を回ると入口が見つかる。 目が慣れるとあまりの多さにびっくりするかもしれない。

内部は石に囲まれており、一部は中に入れるほどの広さのものも。 予想以上に中は広い(ライトを使うとよくわかる)。

古墳群を抜けひたすら歩くと、道沿いにぽつりぽつりと赤い実を付けた植物が登場する。 キイチゴの一種、おそらくクマイチゴである。 甘酸っぱくなかなかおいしいので、チャレンジ精神のある人は味見してみるべし(自己責任でお願いします)。 

イチゴで体力を回復しつつ、階段を上る。 アスファルト舗装の道と合流する付近に1つ目の龍王社「藤井田龍王社」がある。
 ※近くには案内板とお手洗いもあるので、是非活用を。

青銅色の屋根と、社の前の池の風情が素敵。

龍王社を過ぎ、ただ無心に登る。

登る、登る、登る…。

そして到着、南城跡!

大和三山はもとより、北の平城宮跡まで、奈良盆地を一望できる。  残念ながら写真の撮影時は靄がかっていて見えないが、天候に恵まれれば大和青垣山系の間から明石海峡大橋も見ることができるという。 中世の武将気分で奈良盆地を眺めるもよし、明石海峡大橋を探すもよし。 ただ無心にこの眺望を享受するというのも捨てがたい。 天理市は、この龍王山を含むハイキングルートを「歴史と健康の道」と銘打っている。 健康というだけあって緩やかとは言い難いコースが続く。 しかし、この南城跡からの眺めは途中の疲労を補って余りある素晴らしさである。 もちろん眺めだけではない。 そこに至るまでの道のりも十分に楽しめるだろう。

さて、なぜ私は冬季のハイキングを薦めるか。 いくつか理由があるが、一つには他の観光客の少なさが挙げられる。 たとえば山の辺の道などでは、観光シーズンには人が押し寄せ自分のペースでゆっくり歩くことが難しくなるという。 この龍王山は山の辺の道ほどメジャーなスポットではないかもしれないが、道中の楽しみの多さやハイキングルートとしてはいささか険しい道のりから、できることなら自分のペースで進みたいと思うコースである。 冬季であればそのような懸念は杞憂で済む。 加えて言うならば、人の少なさゆえに自らが能動的に楽しもうという姿勢が必要になってくる。 ツアーコンダクターや周りの観光客が解説をしてくれるわけではないし、最悪道に迷うことも考えられる。 結果、必然的に周りに流されるような観光とは異なる楽しさを味わえるのだ。

ちなみに、南城跡から北ルートを下ってしばらくすると2つ目の龍王社「柳本龍王社」がある。

藤井田龍王社に比べて新しい風合いの社。
 ※付近は毒蛇注意とのこと。

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