工学領域

歴史的建造物の保存

藤田 盟児(ふじた めいじ)

研究概要

歴史的建造物や町並みの研究や調査・保存活動をしています。研究面では、和室の歴史を明らかにすることで、日本人の住空間の性質を明らかにしてきました。和室と呼ばれる座敷空間は、集う人々の自由で平等な関係を作るために誕生しました。そのことを鎌倉時代の武士住宅の歴史研究を通じて明らかにしました。さらに日本以外の世界中の文化圏で、建築や都市の空間を通じて人々が希求してきた理想の居住空間を理解する研究もしています。
建築のデザインは、建てた人や使う人の心を表します。そうした視点で世界に広がる建築や町並みを見れば、世界中の人々と出会うことができます。ギリシャ・ローマの建築に託された人文主義の精神、ヨーロッパの教会建築に託された救いを祈る心、インド建築や中国建築に託された永遠なる時間と空間の世界、和室や茶室に託された和の心。それらを二千年の時空を超えて体験できることが、建造物を歴史的に研究することで得られる、かけがえのない体験です。それを通じて過去の人々の心を知ることができれば、自分自身の心を知り、未来を創ることになります。なぜなら、人の精神は記憶でできており、それらは今に残る町並みや建物の中で体験されたものであり、それらを建てた人々の想いを継承したものだからであり、未来を考えるとは、そうして得た記憶を使って行うことだからです。このことに思い至れば、歴史的建造物や環境の保存は、たんなる過去の保存ではなく未来を創る活動でもあることが理解できると思います。そして、このような過去と未来の関係を理解すれば、いま生きていることの意義や、いますべきことも理解できます。これが、あらゆる歴史学が人類に有意義な学問である理由ですが、だれもが見て体験できる古い建物や町並みは、言葉にできない感性も含めた、過去の人々と現在生きている人々の記憶を呼び覚ます最大の遺産なのです。

アピールポイント

行政や住民の依頼で行う文化財建造物や町並みの調査・保存活動は、材料に刻まれた改造の痕跡から復原し、建てられた当初の形態や意匠から建てた人々の心や時代精神を推測し、それを住民に伝えることで、未来に守り伝える活動をサポートしています。そのために建造物に関わる文書調査や材料の科学分析なども行います。現在は、広島県の宮島や奈良県の御所市で町並み保存のための調査を行っています。歴史的建造物や町並みの保存・活用について相談、調査、アドバイス、指導などに各種対応できます。国・県・市町村の各レベルで審議委員を務めており、行政との関係がある場合も的確にアドバイスします。

掲載日:2021/03/31 更新日:2021/03/31