三木 健寿 統御生理学研究室
Miki Kenju laboratory
専門分野
環境生理学、運動生理学
研究内容
1)睡眠レム期の海馬CA1 神経活動と海馬領域血流量の変化
2)すくみ行動(Freezing)時の腎臓および腰部交感神経活動と循環動態の変化
3)ラットにおける高ナトリウム摂取時の腎交感神経活動が尿中ナトリウム排泄量調節に果たす役割

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研究の背景と特色 主な著書 研究論文 担当科目 研究者紹介


研究の背景と特色
 我々は、自由行動下のラットを用い、睡眠・覚醒・運動時の交感神経活動による循環機能調節について検討してきた。特に、自由行動ラットの交感神経活動を長期計測する独自の方法を確立した。この方法を用い、睡眠レム期には覚醒・行動時と同じような交感神経活動と循環動態の変化が生じ、筋肉活動を伴わず上位中枢活動の活性化のみで交感神経活動が変化することを報告してきた。以下に3つの代表的な研究を概説する。
1)睡眠レム期の海馬CA1 神経活動と海馬領域血流量の変化
 Micro-wire arrays 電極を用い海馬CA1神経活動を自由行動下のラットで計測する方法を確立した。さらに、睡眠レム期の海馬領域血流量の同時測定を行い、睡眠レム期の記憶再現時に生じる海馬神経活動と海馬領域血流量の特徴を検討した。
 海馬CA1神経活動は、REM期が最も低く、他の行動ステージに比べて有意(P<0.05)に低かった。一方、睡眠REM期の海馬CA1領域血流量は、ノンレム期に比べてレム期に最も高く、Quiet期が最も低かった以上、睡眠REM期の海馬CA1神経活動は、睡眠-覚醒の行動サイクルの中で最も低い値を示すが、血流量は最も高い値を示すことが明らかとなった。
 海馬CA1錐体細胞は海馬の外へ情報を出力する主要経路であり、睡眠REM期のこの部位の活動の低下は、記憶情報処理の抑制を示唆する。興味深い点は、睡眠REM期海馬CA1領域の血流量は神経活動低下時に増加している点である。脳神経細胞では、一般に神経活動とその領域の血流量は同じ方向に変化する(neuro-vascular coupling)と考えられている。しかし、睡眠REM期にはneuro-vascularのuncouplingが生じている。すなわち、睡眠REM期には海馬の錐体細胞以外の細胞の代謝(グリアなど)の細胞の代謝亢進が考えられる。すなわち、睡眠REM期には記憶情報処理自体の活動が抑制され、その周辺機能の亢進が生じている可能性を示唆する。
2)すくみ行動(Freezing)時の腎臓および腰部交感神経活動と循環動態の変化
 ラットを使った恐怖不安のモデルとして、90dBのホワイトノイズを暴露しFreezing行動を惹起した。Freezing行動は動物が生き残るためのひとつの防衛行動と考えられおり、パターン化した循環動態の変化を生じる。Freezing行動中の、脳波、筋電図、心電図、腎臓交感神経活動、腰部交感神経活動、動脈圧、中心静脈圧を連続測定した。
 腎交感神経活動はFreezing行動開始語上昇し10分間のノイズ暴露中上昇した。一方、腰部交感神経活動と動脈圧はノイズ暴露中有意に変化しなかった。しかし、心拍数は、有意に低下した。以上の結果から、未知で対処方法が不明な刺激に対して、ラットは、動脈圧は変化させずに、腎臓の交感神経活動を活発にし、腎臓そしておそらく内臓臓器の血管収縮を促すと考えられる(右図)。この結果、総末梢血管抵抗は増加するが、心拍数が低下し心拍出量は低下し末梢血管抵抗の増加は相殺され、結果として動脈圧は変化しない。興味深いのは、腰部交感神経活動が変化していない点であり、Freezing行動から実際に闘争あるいは逃避行動に移行する際に筋肉血流量の瞬時の増加を妨げない役割を果たしていると考えられる。

 今後、日常行動の中枢性神経活動の変化と交感神経による循環調節の機構についてさらに検討を進める計画である。これらは、心的外傷後ストレス障害やパニック発作などの心身統合不全の病態解明の基礎となる。
3)ラットにおける高ナトリウム摂取時の腎交感神経活動が尿中ナトリウム排泄量調節に果たす役割
 食塩の過剰摂取が高血圧発症の原因となることが一般的に知られているが、その詳しい機構は不明である。腎交感神経活動はナトリウム排泄に重要な役割を果たすことが知られている。そこで、本実験では、食塩負荷に伴う腎交感神経活動とナトリウム排泄量を測定することにより、それらの因果関係を検討した。
 Wistar系雄ラットを用いて、腎交感神経活動、心拍数、筋電図を測定するための電極を慢性留置した。実験期間をコントロール期、食塩負荷期、リカバー期に分け、それぞれ3日間ずつ設定した。コントロール期、リカバー期は、濃度50mEq/Lの食塩水を与えた。食塩負荷期は、0mEq/Lの塩分を含まない水、154mEq/Lの生理食塩水、308mEq/Lの高濃度食塩水を用意し、そのうちの1つを3日間与え続けた。なお、餌は、食塩無添加食を与えた。実験中は、腎交感神経活動、心拍数、筋電図の測定を24時間連続して行った。さらに、摂食量、糞量、飲水量、尿量を1日2回測定した。
 308mEq/Lの高濃度食塩水負荷時は、ナトリウム排泄量は上昇し、腎交感神経活動は低下した。154mEq/Lの生理食塩水負荷時は、ナトリウム排泄量は上昇し、腎交感神経活動の変化は見られなかった。0mEq/Lの食塩無負荷時はナトリウム排泄量は低下し、腎交感神経活動は上昇した。ナトリウム排泄量と腎交感神経活動の関係は直線関係ではなく指数関数の関係であることが明らかとなった。また、暗期にナトリウムを蓄積し、明期にナトリウムを排泄することでナトリウムバランスを保っていることが示された。腎交感神経は、腎臓でのナトリウム排泄に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。しかし、高ナトリウム摂取時に、腎交感神経はナトリウムバランス維持に積極的な役割を果たしていないと考えられる。

 今後、ラットの交感神経活動の長期計測の手法を用い、交感神経活動が食事と高血圧発症の間をどのように介在しているのかを明らかにする計画である。


研究の背景と特色 主な著書 研究論文 担当科目 研究者紹介



主な著書
イラスト 運動生理学 [→Amazon.co.jp]

三木健寿 (1995)
編集:朝山正己、彼末一之、三木健寿
東京教学社、東京
やさしい生理学 [→Amazon.co.jp]

三木健寿  (1995)
第3章 循環、 編集:岩瀬善彦、森本武利
南江堂、東京. pp.17-39
解剖生理学 (現代人の栄養学)  [→Amazon.co.jp]

三木健寿,白木啓三 (1988)
第2章 循環,第3章 呼吸,第4章 腎臓.
編集:藤田美明,奥恒行.
朝倉書店,東京.pp.93-134
ガイトン生理学  [→Amazon.co.jp]

アーサー・C. ガイトン著
Exercise, Nutrition, and Environmental Stress

Nose, H., Joyner MJ., and Miki, K.
Cooper Publishing Croup, 2004
ISBN 0-9769303-0-7
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研究論文
Differential control of renal and lumbar sympathetic nerve activity during
freezing behavior in conscious rats


Misa Yoshimoto, Keiko Nagata, and Kenju Miki
Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol
2010
Chronic angiotensin II infusion causes differential responses in regional sympathetic nerve activity in rats

Yoshimoto, M., Miki, K., Fink, D.G., King, A., and Osborn J.W.
Hypertension
2010
Role of cardiopulmonary and carotid sinus baroreceptors in regulating renal sympathetic nerve activity during water immersion in conscious dogs

Miki, K., Yoshimoto, M., Hayashida, Y., and Shiraki, K.
Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol
2009
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担当科目
学部 大学院(博士前期) 大学院(博士後期)
【専門科目】
健康運動学
人体生理学U
運動生理学実習
有酸素運動実習
生活健康学概論
生活健康・衣環境学概論
運動医学生理学
運動医学生理学演習
統御生理学
統御生理学演習
【全学共通科目】
朝食たべてダイエット
(キャリアーデザインゼミ)



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奈良女子大学 生活健康学専攻 Copyright © Department of Environmental Health, Nara Women's University.