この作品では、近代都市計画のパラダイムがつくりだした均質で画一的な都市空間と都市景観の中に、次元のことなる時空が生起する状況(circumstance)を設定することによって、多元的な環境認識の手がかりを市民に提供することが主たるテーマです。大阪・中之島という、近代資本主義の市場原理に基づく単一の時間モードが敷衍していると思われがちな空間を、春夏秋冬、晴雨昼夜を問わず、つぶさに観察する過程を通じて、そこに潜む時間の流れと歴史の積層を知覚するための手がかりを発見する作業が先行して行われました。選ばれた7つの場とその状況には、中之島に潜在するトポスを、できるかぎり簡便かつ経済的な方法によって誘い出すという所作を通じて、それまで感じられなかった時間のリズムが付与され、それぞれに新しい場所性が獲得されています。街路、護岸、橋詰、防潮堤、高速道路の高架、川沿いのビル、街路樹・・・これらはいずれも個々別々に具体的な役割を与えられつつ、永らくそこに存在してきたものです。その一部に何かを付加する、あるいはそこから何かを削除することによって、具体的な機能を留保しつつも、全く異質な時間を呼び込む状況が設定されています。なお、この作品は、2002年度ATC関西学生卒業設計展において最優秀賞を受賞したことを申し添えます。(指導教官 宮城俊作)
本研究は、地球環境を考慮した住宅リフォームの実態や要求、また住まいの維持管理行動を明らかにし、さらに居住者のライフスタイル特性からリフォーム観を探ることにより、ライフスタイルを含めた今後の住宅リフォームのあり方の方向性を見出すことを目的としている。
郊外一戸建住宅の居住者を対象に質問紙調査を行い、住宅リフォームの実態や今後のリフォーム要求、住宅への環境技術の導入に対する意識、住まいに対する考え方、環境やモノに対するライフスタイル、中古住宅に対する考え方などを明らかにしている。さらに、居住者のライフスタイルによる類型化を行い、ライフスタイル特性によるリフォーム観を捉えている。居住者の日常生活の仕方や住まいへの考え方がリフォームの実態や要求に大きく影響を及ぼしていること、循環型社会を目指すためには住生活面からどのような取り組みや意識が大切になってくるかなど、今後の住宅リフォームのあり方に示唆を与える有用な知見を導き出しており、卒業論文として高く評価できる。(指導教官 今井範子)
提供された視覚情報が容易に取得できることが快適環境の基本的要件である。本や新聞は手に取り自らの見やすい位置で見ることが可能である。しかし、案内板や設備の注意書きなど位置が固定された文字標示物の多くは下方向や斜め方向から観察しなければならない。また、車椅子使用者などは殆どの公共の標示物を目線高さから見ることができないという現状があり、環境の未整備が指摘される。実生活の様々な局面で視対象が真正面から捉えられないために、計画者の予想を外れて見難かったり、煩わしさや身体的負荷が生じている。しかし既往の明視性評価法は、いずれも観察者が視対象を真正面から捉えることを前提に開発されており、これを実空間計画に利用するには、視対象の呈示位置と明視性や身体的負荷などの関係を明らかにする必要がある。
この目的のためにまず、首を振って視対象を見た場合の明視性や疲労感について、被験者5名による主観評価実験を行い、首を振って見ることのできる範囲とその場合の身体的負荷の関係、更に、大きさの識別閾や、両眼視と片眼視の関係について明らかにしている。次いで、鉛直壁面上の任意の位置に視標を提示した明視性評価実験(細部識別閾、読み易さなど)を行い、その実験結果を基に呈示位置による「視対象の見かけの大きさ」の推定方法を検討している。
明快な研究目標を設定し、研究全体の流れをよく考えて研究を推進し、その結果、明視環境を計画していく上での重要かつ新規性に富む有用な成果を得ている。更に、研究計画立案から成果の取りまとめに至るまでの卒業研究への真摯な取り組み姿勢が高く評価される。(指導教官 井上容子)