奈良女子大学理学部 数学科

数と図形の不思議な旅(第1回)

奈良女子大学 理学部 数学科
平成12年度 公開講座

この度、高校生以上の方を対象として数学に関係する簡単で身近な話題をサマースクールの形で紹介することとなりました。

題して「数と図形の不思議な旅」。

数学の研究者が何を面白いと感じ、どんなことを数学に関する身近な話題だと考えているのか、はたまた、彼らは数学をどのように取り扱うのか等について、暑い最中ではありますが冷房の効いた部屋で、直に話を聞いて何かを感じていただければと考えております。

興味を持たれた方は、どうぞご遠慮無くおいでください。
講演者一同楽しみにお待ちいたしております。


●日程・場所など

◆日時 平成12年8月22日(火)、23日(水)
◆場所 奈良女子大学 理学部C棟 数学科大講義室(C432)
◆参加資格 高校生・一般(男女問わず)
◆募集人員 50名
◆受講料 無料
◆交通アクセス こちらをご覧ください

●講演プログラム

8月22日
10:00--12:30 教授 小林 毅 結び目のお話
14:00--16:30 教授 森本 徹 空間の旅 -- 静かな冒険者たち --
17:00--18:00 お茶の会

8月23日
10:00--12:30 教授 山口 博史 "数'' i($\sqrt{-1}$) との私の旅
14:00--16:30 教授 上田 勝 文章を読めなくする・・・暗号の考え方

それぞれの講演のより詳しい内容は、後ろにまとめてありますのでご覧ください。
初日の講演終了後に講演者達と当教室の他の教師等を交えてのささやかな お茶の会を設ける予定です。

なお,上のプログラムで、$\sqrt{-1}$ とは -1 の平方根,虚数単位 i と呼ばれるものですが、
HPできれいに表わす事ができませんので,このような形になりました.
正式のプログラム(pdf形式)には,きちんとなっておりますので,
ご了承下さい.

●応募方法

期間 平成12年7月1日から7月31日までに必着の事
方法 郵送の場合は、葉書に、住所氏名(ふりがな)、 学校名と学年高校生のみ)、 及び「理学部数学科公開講座受講希望」と明記の上、 下記の申込先にお送りください。
電話またはファックスによる申込をする場合は、 下記の申込先へ、 「理学部数学科公開講座受講希望」の旨を伝えるとともに、 住所氏名学校名と学年高校生のみ)をご連絡下さい。 ただし、電話による受け付けは、平日の10:00--17:00の間のみと させていただきます。
e-mail による申込はご遠慮ください。 なお、8月22日のお茶の会に出席を希望される方は準備の都合上 「お茶の会出席希望」と明記してください。
申込先 〒630-8506 奈良市 北魚屋西町 奈良女子大学 理学部数学教室
数学教室 TEL:(0742)20-3369   FAX:(0742)20-3367
理学部事務 TEL:(0742)20-3428

●講演内容

正式の講演内容ドキュメントはpdf形式のものを見て下さい.

以下のものは,残念ながら,HPに載せるのが困難な記号などを省略しておりますので, あくまで概略であります.
どうかご了承下さい.

小林結び目のお話

ここでいう結び目とは、図1(figure1)のように閉じた(つまり "端が無い" と言うことです)紐のことです。
このような紐は、空間の中で切ったりつないだりしないで、いろいろな形に動かすことができますが、
このような変形でうつりあう結び目は "同じもの" (数学の用語では "同値" といいます)と考える
ことにします。(特に図2(figure 2)の様に全く結ばれていない結び目のことを、 自明な"結び目" と呼びます。)

いま "二つの結び目の絵が与えられたとき、それらが同じ結び目を表すかどうか判定する" olという
問題を考えることができますが、実はこれは数学的に非常に難しい問題であることが証明されています。
ところで、これと逆に与えられた結び目が違うものかどうか区別するための道具として「ジョーンズの
多項式」と呼ばれる量が数学では知られています。今回の講演ではこのジョーンズの多項式に関する
話題を色々と紹介してゆきたいと思います。

森本空間の旅 -- 静かな冒険者たち --

空間とはなんだろうか。

私たちのまわりの自然からさらに遠く星空の彼方にまで宇宙は涯しなく広がっています。
この宇宙を母胎として幾何学は長い時間をかけて発展してきました。
幾何学では、私たちの目に映る外界だけでなく、さらに目には見えない様々な世界までも
空間の仲間に加え、空間について理解を深めてきました。

今日、私たちはいろいろな空間を旅することができます。
それぞれおもしろい特徴を持ち、数々の不思議を秘めています。
あなたは、そのひとつの謎の虜になるかもしれません。
複雑多様な空間をさらに一望のもとに見おろしたいとまた新たな高台を求めて放浪するかもしれません。

幾何学の建設にはこれまで実に多くの人々が関わってきました。
アレクサンダー大王の東方遠征に加わった勇者の子、成吉思汗の末裔、或いはバイキングの子孫、
そんな人がもしかするとそのなかにいるかもしれません。
しかし、これらの人たちは、太刀を奮うこともなく、カン馬に跨ることもなく、荒海に漕ぎ出すことも
なかったでしょう。むしろ、静かにしかし果敢にそして忍耐強く、知的冒険に挑んだ人たちです。

ここでは敢えて「静かな冒険者」と呼んでおきましょう。

この講義では、この静かな冒険者たちとその冒険について、少しばかり気楽なお話しをしたいと思います。
これによって少しなり幾何学の大きな流れを感じていただき、これらの人たちの勇気に励まされる
ところがあれば幸いです。

山口 "数'' $\sqrt{-1}$ との私の旅

●普通の数 x は(それが 0 でないかぎり)

3^2=3 * 3 = 9 >0, (-3)^2 = (-3) * (-3) = 9 >0

のように、常に平方すると正の数になります:

x^2=x * x >0\;.

ところで、人類は16世紀初頭に

○^2 = -1

となる "数''○を考え出しました。これを

\sqrt{-1} または i

と書き、「虚数単位」と言います。(注)

この講演では、この虚数 i が決して "虚'' の数ではなくて、非常に有用な、美しい数である
ことをお話ししたいと思っています。

(注) i は18世紀のスイス生まれの数学者 Euler(オイラー)が導入した記号。

上田 文章を読めなくする・・・暗号の考え方

携帯電話やインターネットなどの情報通信が、身近、というよりは当たり前の事になり、
また電子マネーの導入などの話題も架空の話ではなくていつ始まるかという状況になってきています。

このように社会の情報化の中で、個人の情報をやり取りする機会が増えてきていますので、
自分のプライバシーを守る事はますます重要に成ってきています。

これら情報の保護の主役は、昔は軍隊やスパイ達の道具であった「暗号」です。

暗号の基本的な仕組みを多少なりとも知識として知っておくことは、直接的に役に立つことはない
としても、政府や様々な会社が情報の保護に対して何を議論して、何をしようとしているのかを
理解するために役に立つことが有ると思います。

講演者は暗号理論の専門家ではありません。しかし、現在使われている暗号の仕組みは筆者の
専門分野である整数論という数学の一分野に密接に関係しています。

そこで、今回の講演では大変短い時間ですが、この暗号の仕組みのごくごく初歩とそれにまつわる
数学、特に整数論との関りを解説することにしたいと考えています。

古くからさまざまな暗号が考案されて使われてきていますが、講演で扱う予定なのは、古代ローマの
シーザーも使用していたといわれる「古典的秘密鍵」暗号。それと現代において考案された「公開鍵」
暗号の二つの仕組みです。

できる限り、実例を使って説明して分かってもらうつもりです。
そこで、宿題を出しておきましょう。次の暗号を解読出来るでしょうか?

(1) 「myxqbkdevkdsyxc yx iyeb cemmocc」

(2) 「lvsxefknmfkdvsh vs zvne hnllrhh」

これの原文(平文)は、同一の英文です。26文字のアルファベットのみ用いています。
(1) は「シーザー型暗号」もしくは「シフト暗号」と呼ばれるもので、
(2) はそれを拡張した「アファイン型暗号」と呼ばれるものです。

Hint
解読「成功」を祝して、前もって「おめでとう」と述べておきましょう。


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