本学では、白血病やアルツハイマー病との関連が指摘され注目を集めているCALM(カルム)遺伝子が、細胞の鉄の取り込みと赤血球造血に必要であることを、ノックアウトマウスを作製して世界で初めて証明しました。これは、鈴木麻衣(大学院人間文化研究科博士後期課程2年次生)と渡邊利雄(人間文化研究科教授)らによる成果です。
細胞内の物質の輸送は、クラスリン被覆小胞をはじめとする「小胞」というパッケージに積み荷のタンパク質を入れて運ぶことで行われています。この輸送が正しく行われないと細胞内の物流が滞留して、その結果白血病やアルツハイマー病になるのではないかと考えられています。さて、このパッケージを作る際には行き先や積み荷の種類を決める様々なタンパク質が必要です。このうち、パッケージの一番外側を覆うのがクラスリン等の被覆です。今回、注目したのがこのクラスリンを集めるタンパク質の1つ、CALMです。
白血病の原因遺伝子CALM-AF10として発見され、近年アルツハイマー病との関連も指摘され注目を集めているCALMは、クラスリン被覆小胞による細胞内外の物質輸送に関与していると考えられています。細胞の生存や造血に必須の重金属である鉄は鉄結合タンパク質のトランスフェリンに結合し、クラスリン被覆小胞により細胞に取り込まれますが、従来の定説ではこの過程にCALMは関与しないとなっていました。
今回、CALM遺伝子欠損マウスを作製することで、
(1)従来の定説とは異なり、CALMはトランスフェリンの取り込みに必要であること
(2)CALMの欠損は赤血球の鉄の取り込みを低下させ、その結果赤血球の分化が異常となり極度の貧血を引き起こしていること
(3)CALM欠損マウスの脳では、アルツハイマー病とよく似た脳室の肥大が起こっていること
から、神経細胞にも重要であることを明らかにしました。
これらの結果は、基礎細胞生物学の研究に大いに貢献するとともに、白血病やアルツハイマー病の発症機構の理解にも貢献するものと期待されます。
この研究成果は、2月21日付けの米国・国際学術誌「プロスワン」に掲載されています。
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