<<学長式辞>>
新入生の皆さん、奈良女子大学ご入学おめでとうございます。本日ご来賓の方々とともに、本学の役員、教職員一同は、皆さんの入学を心より歓迎致します。また、本日付き添ってこられたご家族の方々、あるいは遠くで皆さんの晴れの姿を思い描いておられるご家族・ご親族の方々にも、心よりお祝い申し上げます。
今日から皆さんは、名実ともに、奈良女子大学生となりました。
さて、皆さんは先ほど、本学音楽部の先輩達のコーラスを聴きましたね。あれは紹介にあったとおり、1909年に開校された奈良女子高等師範学校の校歌です。今から103年前の4月、第1期生77名が入学し、希望に満ちた学生生活を開始しました。当時は、「女性に学問や高等教育はいらない」という社会風潮のもとで、最高学府である既存の帝国大学は、女性の入学を認めていませんでした。後から創立された東北帝国大学が、初めて女性の入学を認めましたが、それを非難する教育行政機関や男尊女卑の社会からの強い逆風で、長続きしませんでした。従って、そのころ既に開校されていた東京女子高等師範学校(これは現在のお茶の水女子大学の前身ですが)それと奈良女子高等師範学校の2校のみが、当時の我が国における、女性のための最高の国立高等教育機関でありました。
第二次世界大戦終戦後、我が国の民主化の中で新制大学が多く創立され、女性の大学進学にも路が開かれました。多くの先人のご尽力により、1949年5月に、奈良女子高等師範学校を基盤として、文学部、理家政学部を持つ、国立奈良女子大学が発足しました。その後、学部、大学院の拡充改組を重ね、今では、文学部、理学部、生活環境学部と、これら3学部を基盤とする大学院人間文化研究科(博士前期課程2年、博士後期課程3年)を擁する総合大学に発展してきました。本年度の入学者総数は、開校当時の約7倍の人数となりました。皆さんは今、そのどれかの学部に入学し、大学生活を送ることになります。
皆さんは、これから様々なガイダンスを受け、自分で受講計画を立てなければなりません。自分で大学生活を設計しなければなりません。しかし、それは大学生の誰もが経験する自立への第一歩です。大学の授業内容は、高校に比べて急激に難しくなっていきます。うっかり遊び呆けていると、あとで悔やむことになります。常日頃の積み重ねを大切にしてください。
本学では、皆さんに対して、受動的・消極的な勉強方法から抜け出し、自分の目標をもって、能動的・積極的に勉学や研究に臨むことを期待します。本学は女子大学ですから、実験や実習などでも、女子学生の皆さん自身が自分達で何でもやらなければなりません。しかし、それは、逆に、自分達が中心になって何でもできるということでもあります。そして、それらの経験の積み重ねが、将来、自立して社会で活躍できる実力と自信をつけてくれます。実際、本学に対する社会からの評価の高さは、毎年の高い就職率に現れています。女性の自立心を養う教育研究環境、それが奈良女子大学の特徴のひとつです。
そのような教育研究環境の中で、皆さんには、卒業までに必ず何かの専門的知識を身につけてほしいと思います。それが、将来社会で活躍するための基盤になります。一方、専門分野を越えて、芸術や科学を見渡せる幅広い視野を持つように努めてください。我が国では、高校までの教育において、受験勉強を効率的に行うため、「文系」と「理系」に生徒を分けてしまい、そのときの分類に自分自身が一生とらわれてしまうという、非常に特殊な教育環境の中にいます。しかし、人間の適正や興味を単純に2分割することはできません。人間はそれほど単純ではありません。そこで、文系の分野に入学した人は、理系の分野に目を開いてください。逆に、理系の分野に入学した人は、文系の世界に目を開いてください。専門外の分野を知ることは人間性の幅を広げてくれますし、専門外ですから、気楽に接すればよいのです。このことは、栄養バランスの良い食事をすることで、健全な身体が作られていくことに例えると分かりやすいと思います。
また、グローバル化された世界の中で、国際的な視野を持つために、外国語も積極的に学んでください。外国語は単なる外国の言葉という意味だけではありません。その国の文化・歴史・習慣が反映されているものです。特に、実務的な国際共通語としての英語、あるいは道具としての英語は、理系・文系に関係なく学ぶことを強く勧めます。自分が理系と思っている人は、「英語は文系」と単純に思わないでください。実際、多くの理系の先生方や大学院生は、英語の論文を読み書きし、国際会議などで英語を使って発表をしたり、議論をしたりしています。外国語の勉強は若いときが一番効率的・効果的であることは言うまでもありません。チャンスを逃してはいけません。
ところで、大学時代は、多くの人々との出会いの時でもあります。良き友人、先輩、尊敬できる先生方に巡り会う時代でもあります。独りの世界に閉じこもらず、クラスやサークル活動を通じて、多くの人たちと交流しましょう。友人の大切さは、よく分かっていると思いますが、近隣地域の友人に限られていた高校時代までとは異なり、様々な地域性を持つ同級生が、日本全国から、あるいは世界各地から、この入学式に出席しています。異なった国や地域で育った友人と知り合うことも楽しいことであり、自分の視野を広げてくれます。
さて、季節はちょうど春、構内でも桜のつぼみがふくらみ始め、皆さんの入学を迎えています。皆さんは、式典が始まる前に、この舞台の緞帳をご覧になりましたね。この緞帳は、1983年に、この講堂が完成したとき、同窓会である佐保会から寄贈されたものですが、その原画は、文化勲章受章者で、奈良女子高等師範学校を総代で卒業された小倉遊亀画伯が、御年87歳の時に本学のために描いてくださったものです。画面中央の大きな桜の古木に、満開の桜の花が描かれたこの原画は、作者自身から「爛漫」と名付けられました。「春爛漫」の爛漫ですね。緞帳が初めて披露されたときに本学にお出でになった小倉先生は、最後に「この桜の花は皆さん達ですよ!」と、原画に込めた思いを熱く語ってくださいました。小倉先生がひとひらひとひらの花びらを描きながら、皆さんに送ってくださった熱い思いを、再度、十分に鑑賞し、堪能し、心に刻み込んでください。そして、卒業するときに、皆さん一人一人が、古き伝統を持つ奈良女子大学という古木に咲き誇る満開の花となるよう、有意義な大学生活を送ってくださることを期待しつつ、私の式辞と致します。
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