令和3年度奈良女子大学入学宣誓式 学長式辞

    

 文学部159名、理学部151名、生活環境学部191名、3年次編入学生32名、合計533名の新入生の皆さん、編入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。奈良女子大学の教職員一同は皆さまのご入学を心より歓迎いたします。また全国各地で皆様のご入学をお喜びのご親族の方々に、心よりお祝いを申し上げます。
  本講堂の緞帳は、皆さんの先輩の同窓会である佐保会からの寄付で作られました。皆さんの大先輩で文化勲章受章者である小倉遊亀画伯が、構図を描かれたものです。ご本人のお言葉ですが、「これは大学の5階から見た若草山の山並をバックに、大きな古い桜の樹が、今や満開に咲きほこった光景を描きました。画面いっぱいに咲きほこる桜の花には一点の不純さもなく香気ふくいくと両手をひろげて、己の力のすべてを出しています。若い皆様の思い思いの方向に進んでゆかれようとするお姿ではないかと思います。皆様の前途を祝福して『爛漫』という題にさせて頂きました。」という後輩を思う人生訓が力強いタッチに表れています。小倉先生は本学の前身である奈良女子高等師範学校の5期生で、皆さんの100年以上の大先輩です。
  ご存知のように、本学には文学部、理学部、そして生活環境学部があります。さらに大学院の修士コースと博士コースがあります。今や皆さんの同世代の半数が4年制大学を卒業しますので、高度な専門家を目指す場合は修士課程を修了することが必要になります。入学したばかりですが、人生の大きな選択ですので大学院進学を是非考えてください。本学では既に学部4年と大学院2年の6年一貫教育制度が利用できるように準備をしています。是非その活用を頭に入れておいてください。
  さて、文学部の認識方法は「世の中を言葉で切り取る」ことです。理学部の認識方法は「世の中を数式あるいは実験というモデルで切り取る」ことです。生活環境学部の認識方法は「世の中を生活の必要性で切り取る」ことです。多くの人類が今となっては狭い地球で幸せに生きていくために、これらの3学部の認識方法がそれぞれ必要です。各分野独自の方法を大学でマスターした人間が成長し幸福を勝ち取ることができます。この知恵こそ大学で学ぶことです。
  これら専門的な学びと平行して必要なのが、教養です。グローバル人材ということが盛んに言われていますが、文化や言葉の違う人々を同僚として、同じ会社で働くことを想像してください。語学特に英語の必要性は無論ですが、話す内容を持つこと、お互いの意見を理解しあうことがより重要になります。そのためには、「沈黙は金なり」という従来の日本人の行動パターンではうまくいきません。しっかり考え、しっかり語ること、それが重要で、そのことを「教養」と呼んでいます。是非高い教養を身につけてください。このため、本学では小ゼミ、パサージュを開講して皆さんを鍛えています。
  もちろんコミュニケーションツールである英語は重要です。英語教育の実効性を高める目的で、学部を越えた能力別クラス分けを行っています。有効に活用して下さい。さらにQQ English等英語耳を鍛え皆さんの留学を支援する仕組みを作っていますので、これも活用してください。
さて、奈良は古代建築や仏像で世界的に有名な場所です。これらを見ながら1000年以上前の人々が願ったことを想像してみてください。奈良の地には仏教の影響が至る所にあります。仏教とは何かということを簡単に言うことはできませんが、海外からの留学生や旅行者から説明を求められるかもしれません。金子みすゞという詩人がいました。「わたしがさびしいときに、ほとけさまはさびしいの」という詩の一節があります。本学で教鞭をとっていた数学者岡潔博士は「人が悲しんでいることがわかることを理性という。人が悲しんでいると自分も悲しくなるのを宗教心という。」といっています。皆さんの考えのヒントにしてください。
  さて、新型コロナの封じ込めに最も成功したのは台湾です。皆さんが生まれた頃、2003年にSARSの流行があり台湾では多くの死者が出ました。その反省をしっかりしたので今回の新型コロナの対応ができたのです。日本人は反省が苦手ですが、この例で分かるように反省のパワーはとても大きいものがあります。
  最後になりますが、私たち教職員は皆さんの成長と活躍が大きな喜びです。この奈良の地で学んだことを、生涯の宝として育ててください。皆さんの前にある実り多い学生生活を祈念してお祝いの言葉といたします。

 令和3年4月4日 奈良女子大学長 今岡春樹