令和3年10月大学院入学宣誓式を挙行しました


 
 
 
 
 
 
 
 

 皆様、奈良女子大学の大学院人間文化総合科学研究科にご入学おめでとうございます。大学の教職員一同は、皆さまのご入学を歓迎いたします。また、本日の皆さまのご入学をお喜びのご家族、ご親族の方々に心からお祝い申し上げます。入学者は博士前期課程6名、博士後期課程4名で、合計10名です。
 さて、学士課程の4年間は、多くの場合青春の迷い道にトラップされます。プライドとの格闘で、自分のプライドとうまく付き合う術を手に入れるまで時間がかかることがあります。博士前期課程、博士後期課程と進むにつれ、ちょうど霧が晴れるように自分の進む道が見えることがあります。皆さんは大学院に入学されたのですから、既にそのような経験をお持ちでしょう。自分の進む道が分かったとして、次に大切なのは学問上の業績になります。
 良い業績とは何でしょうか。幸福を得るチャンスは人によらず平等に訪れますが、チャンスは、準備をした者のみに微笑むと言われます。私の尊敬する人で、既に亡くなったのですが、スポーツ用品や靴のメーカーで「アシックス」の創業者である鬼塚さんがいます。鬼塚さんが準備をするということはどういうことかを、次のように言っています。人は誰でも成功して幸せになりたいと願望する。それには、「善なる目標を立てなさい」といいます。利己的でない善なる目標は、使命感につながり、使命感は自己肯定につながる。これが、苦しいときの忍耐力となる。このような前向きの姿を貫くとき、チャンスが微笑むと教えています。「靴でお金を儲けよう」ではなく「世界にない、良い靴を作ろう」を目的にするわけです。
 研究の場合、「世界にない、良い研究をする」となります。そのような目標を持ち続けると、創造の喜び、発見の喜び、何物にも代えがたい歓喜が時に舞い降りるものです。皆さんの1人でも多くが、この研究の喜びを味わってくれることを願っています。
 さて、今年度から大学院博士後期課程において、従前は考えられなかったことが起こっています。「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」というのが正式名称です。選考された博士後期課程の学生に、研究時間を与えるために生活費相当の支援金を給付というものです。もう一つ「次世代研究者挑戦的研究プログラム」というのがあり、これも良く似たプログラムです。現在までこのプログラムに採択されている女子大学は、本学とお茶の水女子大学の二つだけです。全員というわけにはいきませんが、日本が博士育成の点で大きく変わるということを強く感じます。
 さて話は変わりますが、今年も昨年に続いて新型コロナウイルスの蔓延があり、今でも進行中です。授業の在り方が、対面が当たり前だったのですが、オンラインやオンデマンド授業が行われるようになりました。入出国の制限は今でも続いています。これら遠隔コミュニケーションは、遠くまで出かけなくても済むなど長所もありますが、友達など人間関係を築くのが難しいという欠点があります。研究では、他人の意見を聞くことが大切で、どうしても対面授業が大切になります。というのは大学では、特に大学院となればなおさらですが、学ぶ力よりも研究する力、さらに創造する力を発揮することが大切になります。皆さんは大学院生ですので、学力・研究力・創造力の違いを理解するようにしてください。学力とは、整理された知見を効率よく吸収・消化する力のことです。研究力とは、現象の中に不思議を感じ、それを解き明かそうとする意欲や能力のことです。創造力とは、身の回りに働きかけ、新たなものを生み出す力でチーム力も必要になります。
 最後になります。日本の古都奈良の地には心をゆさぶる文化遺産がたくさんあります。まずは第73回の正倉院展をお勧めします。
 この古都奈良で、切磋琢磨され、知能・品格ともすばらしいリーダーに成長されることを祈念してお祝いの言葉といたします。

令和3年10月1日 奈良女子大学長 今岡春樹