といへるにおとこ京へなんまかるとて
 (天福わ一本 ね)
 くりはらのあれはの松の人ならば
 みやこのつとにいざといはましを
といへりければ、よろこぼひて、おもひ
けらしとぞいひをりける
十五
むかしみちのくにて、なでうことなき
  (妻也)    (業平の心也)
人のめにかよひけるに、あやしうさ
* は狐也。はめは食の字也。師狐此鳥をくはんとの心也。くだかけは玄家鶏也。たゝ
  かけとばかりにもよめり。里なかになくなるかけのよびたてゝいたくはなかぬかへれづま
  かも。一まだきは速の字也。はやき心也。せなは夫也。庭鳥早く鳴て男をかへしつと
  うらむる也師
  (天福わ ね)
 くりはらのあれは
  師あれはあねは五歌通
  おなじ事也。古今第二十
  東歌にをぐろさき
  みつのこ嶋の人ならば
  都のつとにいざといは
  ましをとあり。第一第二の句のかはれるばかり也。つとは「 」也都のみやけ
  にと也肖心はあねはの松を其人にたとへてさそはるべき人ならばいざと
  いはまし物をといふ也玄同
 よろらぼひて一よろこびて也、都へつれてゆかばやといへるを女の悦べる也玄同義
 おもひけらしとぞ肖男の思ひけるにと女のいひて悦たる也玄同義
 なでうことなき一無何条
  事也何事もなきと云
  事也。あしからずよから*
やうにてあるべき女ともあらずみえけれは
 しのぶ山しのびてかよふみちもがな
 人のこゝろのおくも見るべし
      (玄あはれにおもへる也)
女かぎりなくめでたしとおもへと、さ
 (一不祥サカナキ悪同わろき心也)
るさがなきえびす、心を見てはいか
がはせんは
* ぬ人をいふ。此詞は源氏
  の東屋の巻に有
  玄なでうことなき人の
  すさまじき都したる
  云々
 あやしうさやうにて
  師かよひけりとある詞を
  うけて、あやしうさや
  うに夫ありながら人を
  かよはすへきこともあら
  ずとの儀也 一始
  終かよはすべき女ともお
  ほえぬをあやしと思ひて、其心をしらまほしく思ひて歌よみて遣る也
 しのぶ山しのびて一信夫山は奥州にあり。さて人の心の奥とそへたり。
  此歌新勅撰集に入たり玄忍びてかよふ道もがなといふは人の心の中へ
  しのびてかよふ道のあれかしと也。しからば人の心の奥を見るべき物を
  と也古今俳諧おもふてふ人の心のくまどとにたとちかくれつゝ見るよしも
  がな。たちかくれてふと見付んといふ所俳諧也
 えびす心師あづまえびす心といふ心也一忍山の歌をよみやりたれば、女限り
  なくめでたしとおもへる心の見えければ、わろきえびす心と男の思ひ
  て、始終見んと思ふ心のなくなり侍るにや師其心すえぬほどはゆかし*