古今の歌に、 古の賎のおたまきいやしきもよきも
さかりは有にし物を 下児女の、 苧をうみて巻たる
を、 へそといふ。 それを、 賎のおた巻とも云。 さて、 いやしきと
つゝけてよめり。 惟曰、 小野篁物云ける女いへは、 数ならは
かゝらましやは世の中にいと悲しきはしつのおた巻 此は、 只
いやしきといふこと也。 此物語のは、 くり返しといわん為の
序也。 情ナク。 往ムカシ昔 ヒ 古〈真名〉。 闕云、 苧を長くうみ
てくる物なれは、 くり返しと云。
といへりけれとも、 なにともおもわすや有けん。
此段、 不定の平 [付紙 平は業平か] を、 女の何とも思わぬと也。
三十三
むかし、 おとこ、 津の国むはらの郡にかよひけり。 女、 此たひ
いきては、 又はこしとおもへるけしきなれは、 おとこ、
○むはらの ―― 菟原〈ノ〉郡摂津国ツノクニ〈真名〉。 業の
領地にて通ふと也。 又はこし、 業の又はこし
と思ひて女の侘たる気色をみて、 なくさめて
よめり。 ○むかし、 男、 津の国うはら ――
贈答のやさしき体を云也。 ○又はこし、 平上京
あらは、 又とも逢事はなるましきと女思ふ也。
○芦屋の里、 在所也。
あしへよりみちくる塩のいやましに君に心を思ひますかな
○ますかなは、 弥益也。 ○芦へより塩満はいつとも
なくます。 其ことくに、 常はなをさりなりしも、