他国との教育の違いを現地で学ぶ

小野寺 香

文学部 人間科学科 教育学・人間学コース 准教授

―― 先生の研究内容について教えてください。
 私の専門は比較教育学です。国や地域ごとの教育制度や教育内容、学び方などについて、地域的特質を明らかにしていく学問です。
  比較と聞くと、どちらが良い・悪いという評価をイメージするかもしれませんが、私自身はむしろ、似ていると思っていたものの中にある違いを発見していく過程そのものに面白さがあると感じています。異なる国や地域の教育を理解し人間の生きることの意味の多様性の理解をめざしています。

―― 研究対象として、特に中国の教育に注目されているのはなぜでしょうか。
 日本と中国は歴史的・文化的にも類似点は多くみられます。一見すると似ているように思えるからこそ、教育制度や学校現場、学習者の姿を詳しく見ていくと、想像以上に異なる点が多いことに気づきます。 そうした近いからこそ見えてくる違いを丁寧に捉えていくことが、私の研究の大切な視点になっています。

―― 比較教育学では、現地に赴いて調査を行う点も特徴だと伺いました。どのようなところが魅力ですか。
 文献や統計データだけでは把握しきれないことが、現地にはたくさんあります。学校の雰囲気や教室内でのやり取り、教員や生徒が教育をどのように捉えているのかといった、いわば教育の「空気感」は、現場に行ってこそ感じ取れるものです。
 また、学校教育だけでなく、その地域のコミュニティや人々の暮らしにも触れることで、人間の多様さがより立体的に見えてきます。こうした体験が、研究の理解を深めてくれます。

中国の高校での授業風景

中国の高校のグラウンドの様子(始業前の運動)

―― グローバル化が進む中で、PISA(OECDの学習到達度調査)のように国際的に教育が比較される時代になっています。先生はどのように見ていますか。
 PISAは、義務教育終了段階の生徒が持つ知識・技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかに焦点を当て、各国の学力を同じ基準で測ることを目的としています。
 ただし、同じ調査結果であっても、その受け止め方や意味づけは国によって異なります。順位や数値そのもの以上に、教育政策にどのように反映されるのか、それが教育現場でどう実践されるかといった点に、国・地域ごとの違いが表れます。

―― 「同じ『学力』という言葉でも国によって中身が違う」とのお話が印象的でした。どういうことでしょうか。
 特に1990年代以降、教育の目標は世界的にある程度共通化されつつあります。しかし、その共通目標をどのように解釈し、各国の教育にどのように落とし込むかは一様ではありません。
 同じ「学力」という言葉を使っていても、重視される能力や評価、その重みづけは国や地域によって異なります。こうした違いに注目し、それぞれの独自性を読み解いていくことも、比較教育学の面白さの一つだと考えています。

―― 比較の視点から見たとき、日本の教育にはどんな特徴がありますか。
 例えば、日本独自の特徴の一つとして挙げられるのが、教員同士が互いに学び合う文化や仕組みが比較的整っている点です。校内研修や授業研究などを通して、教員が協働的に授業改善に取り組む姿勢は、日本の教育の特徴と言われています。
 近年では、こうした取り組みが日本国内にとどまらず、海外にも広がっています。日本の実践をどのように他国の教育現場に応用できるのか、また、その導入によって教育がどのように変化するのかについての研究もなされています。

―― 研究や授業に向き合う上で、先生が大切にしている姿勢を教えてください。
 比較教育学を学ぶ中で強く感じているのは、違いを見つけることで自分の世界が広がっていくという感覚です。そのため、自分の中で「正しい」「当たり前だ」と思っていることを疑う姿勢を、常に持ち続けるようにしています。
 研究において「こうであるべき」という価値観を強く持ちすぎると、見えるものが限られてしまいます。物事を教える立場であっても、「正しい答え」や「望ましいこと」を一方的に示すのではなく、自分自身を批判的に捉え直す姿勢を大切にしながら授業に向き合っています。

―― 最近の関心として、「総合」科目や大学入試についても触れられていました。どのような点に関心がありますか。
 最近は、大学受験で入試とセットで測られるようにもなってきている「総合」という科目が、中国の学校教育でどのように広がっているのか、政策と実践それぞれにおけるその意味づけや目的などに関心を持っています。
 今後は、中国を含む世界各地で積極的に行われるようになってきている総合学習や、それと連動して改革がすすめられている大学入試制度などにも関心を広げながら、引き続き比較教育学の視点で学びを深めていきたいと考えています。

中国の高校での総合学習のテキスト

―― 最後に、これから学ぶ学生たちへメッセージをお願いします。
 さまざまな授業を受け、周囲の人たちと意見を交わしながら、自分自身の世界を広げていってほしいと思います。そのさいに大事なことは、たとえ自分と異なる状況や立場にある人について考える際であっても、「自分には関係がない」と切り捨てるのではなく、共感性を持って考える姿勢だと思います。様々な人、ものへの想像力があればあるほど、より寛容に生きることができるようになるのではないかと思います。


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