理学部 化学生物環境学科 環境科学コース 助教
―― 先生のご専門である「陸域リモートセンシング」とは、どのような研究分野ですか。現在取り組まれている研究内容とあわせて教えてください。
陸域リモートセンシングとは、人工衛星などを使って上空から得た画像をもとに、地表の状態やその変化を調べる分野です。例えば、どこに森林があるのか、森林がどのように変化しているのか、土地利用がどのように変わったのかといったことを、広い範囲で捉えることができます。
現在は、森林を対象とした研究に取り組んでいます。日本では、スギやヒノキなどが木材として広く利用されていますが、広い森林の中で、それらがどこに、どのように分布しているのかを人の手だけで調べるのは大変です。そこで、衛星画像などを使って樹種の分布を把握し、森林を管理する方々の調査の負担を減らしたり、管理に役立てたりできないかと考えています。

三重県内の森林を対象に、衛星画像を用いてスギとヒノキを分類した結果(ピンク:スギ、青:ヒノキ)
―― リモートセンシングの研究に関心を持たれたきっかけを教えてください。
大学に入ってから、授業で初めてリモートセンシングという技術を知りました。もともとは野生動物に関心があり、野生動物が暮らす環境を調べるための手段として使えるのではないかと思ったことがきっかけです。
また、リモートセンシングは、人の目では直接見ることのできないものや、広い範囲の状態を捉えることができる技術です。そうした技術そのものにも面白さを感じ、次第にこの分野に興味を持つようになりました。
―― 学生時代にはどのような研究に取り組まれていましたか。また、その経験は現在の研究にどのようにつながっていますか。
学生時代は、モンゴルの草原の植生と黄砂の発生との関係について研究していました。黄砂の発生には、その春の植生だけでなく、前年の夏の植生の状態も関係していることが分かってきました。
研究では衛星データを使うだけでなく、実際にモンゴルへ行って現地調査も行いました。春のモンゴルでは植物が低く、まばらに生えているため、衛星画像だけでは細かな植生の状態を捉えにくいことがあります。しかし、現地へ行ってみると、画像では一面茶色のように見えていた場所にも、意外と植物が生えていました。また、夜に雨が降った翌日に、景色が驚くほど緑に変わっていたこともありました。
データを見ているだけでもある程度は想像できますが、現地に行って初めて分かることがたくさんあります。この経験から、実際に現場を見て確かめることの大切さを学びました。これは、現在の研究でも大事にしていることです。
モンゴルでの植生調査の様子(左:草原、右:ゴビ砂漠)
―― 先生の研究では、人工衛星のデータやGIS、現地調査などを用いられています。それぞれを組み合わせることで、どのようなことが分かるのでしょうか。
衛星データからは、広い範囲の地表の状態や変化を捉えることができます。一方、GISを使うと、人口や年齢構成、森林の樹齢や植栽時期など、場所に結びついたさまざまな情報を地図上で重ねて見ることができます。
例えば、衛星画像から森林の分布を捉え、樹齢などの情報を重ねることで、今後どこを管理していく必要があるのかを考える材料になります。また、農地の変化と人口に関するデータを組み合わせることで、人口減少などと土地利用の変化がどのように関係しているのかを考える手がかりにもなります。
さらに現地調査を行うことで、衛星画像だけでは分かりにくい植物の種類や草丈などを確認できます。こうした異なる情報を組み合わせることで、より詳しく環境の状態や変化を捉えることができます。
―― これまでの研究や現地調査の中で、特に印象に残っていることを教えてください。
一番印象に残っているのは、学生時代に行ったモンゴルでの調査です。現地では、遊牧民の方々が家畜を放牧し、季節に応じて移動しながら暮らしていました。
特に印象的だったのは、草原に負担をかけすぎないように家畜を移動させるなど、自然の状態をよく理解しながら生活していることです。実際にその土地へ行き、自分がそれまで知らなかった地域の人々の暮らしを見ることで、人の生活と自然環境がどのように関わっているのかを知ることができました。研究対象となる環境だけでなく、そこで暮らす人々について知ることの大切さも感じました。
―― 先生の研究は、環境問題や私たちの暮らしとどのようにつながっているのでしょうか。
私たちの研究が環境問題そのものを直接解決するというよりも、環境を守ったり、適切に管理したりするために必要な情報を提供することが役割だと考えています。
例えば森林であれば、どこにどのような木が分布しているのか、どの場所を今後管理していく必要があるのかを把握しやすくすることで、森林管理に役立てることができます。リモートセンシングを使って、環境を管理する方々が判断するための基礎となる情報を提供していきたいと考えています。
―― 研究を進める中で、どのようなときにやりがいや面白さを感じますか。また、難しさを感じるのはどのようなときですか。
研究では、まず仮説を立て、それが正しいかどうかを調べていきます。自分の仮説が正しかったと分かるのもうれしいのですが、むしろ予想とは違う結果が出たときの方が面白いと感じることがあります。「なぜこうなったのだろう」と考えることで、それまで知らなかったことが見えてくるからです。
学生時代のモンゴルでの研究でも、家畜の放牧が草原に過度な負担を与えているのではないかと考えて調査したことがありました。しかし、実際にデータを見ていくと、想定したような影響は見られませんでした。現地では、遊牧民の方々が草原の状態を見ながら家畜を移動させ、自然とうまく付き合いながら暮らしていました。自分の予想とは違う結果から、別のことが見えてきた例の一つです。
自然を相手にしていると、分からないことの方が多くあります。予想と違う結果が出たときに、その原因を考えていく過程は難しいですが、同時に研究の面白さでもあると思います。
―― 今後の研究の展望や目標について教えてください。
現在取り組んでいる森林の研究を、実際の森林管理の現場で役立つものにしていきたいと考えています。森林組合など、現場で働く方々の役に立つような手法を開発し、そこで終わるのではなく、実際に使ってもらえるところまでつなげることが目標です。
現在は、現場の方々とつながりのある共同研究者と一緒に話を聞く機会をつくりながら、どのような方法であれば実際に活用してもらえるのか、試行錯誤を続けています。