令和7年 8月25日(月)11:00〜17:00、文学部N棟202教室にて、『古代日本における文字との出会い』を、大テーマとして開催し、参加者約90名にお集まりいただきました。本学 大学院博士後期課程 汲田美砂さんの報告記を紹介します。
奈良女子大学大学院博士後期課程 汲田 美砂
「古代日本における文字との出会い」と題された本シンポジウムは、李媛氏、成田健太郎氏、笹原宏之氏の御講演、その後に会場の若手研究者との質疑応答、報告者間での討論という流れで行われた。
李氏の御報告は、『篆隷万象名義』および『玉篇』のテキストデータベースを利用した数的分析に基づくもので、従来『玉篇』を基にした漢字字書とされてきた『篆隷万象名義』が多分に持つ類書的性質を明らかにするものであった。また、『篆隷万象名義』にみられる類書的属性は、特定の意味領域において特に
強く見られるとのことで、これには空海自身の興味関心が反映されているのではないかとの御指摘があった。また、成田氏の御報告は「書体」の多様性をもたらしたという側面から空海の果たした役割とその特異性を示唆するものだった。空海が唐から日本へ持ち帰り献上した書籍のなかには多様な漢字書体を伝え
るものが含まれており、単に、漢字の意味内容や正しい書き方を伝えるばかりではなかったという。様々な書体の「生きた使用例」を目撃し、日本でも実践しようと試みたという空海。李氏の御報告とも併せて、漢字という「文字」と日本の出会いにおいては、空海が一つの転換点として機能していたことが浮かびあがってきたように思う。
李氏、成田氏の御報告がともに「文字」にまつわる文化が日本に持ち込まれる時点を描くものであったのに対して、笹原氏の御報告は「文字」が受容されたのち、日本で独自の変化を遂げる過程、その広がりを個別具体的な例とともに示すものであった。奈良時代から「国字」と呼ばれる日本独自の漢字が発生し
始めるそうだ。しかし、古代にはほとんど名詞のみに限られていた「国字」が、時代を下ると形容詞・副詞にも見え始めるといい、ここからは漢字に対する人々の意識の変化が感じられた。
三者の御講演は、今日、我々が日本語を構成する一要素として扱っている「漢字」を、古代・中古の人々がどのように受容・活用していったか、異文化であった「漢字」が日本文化へ内在化されていく過程を示すものであったと思う。また、講演内容の本旨とは外れるものの、報告者間の質疑において、成田氏から李
氏・笹原氏へ、研究上で使用するデータベースやデジタルアーカイブの捉え方について問いかけがあったのが印象的であった。これは恐らく、現在、多くの研究分野が抱える共通の課題だろう。新しい道具をいかに受容・活用するか――急増するデジタルアーカイブや急速に進化するAIと我々は今まさに「出会」っている。この
「出会い」にいかに立ち向かうべきか、その糸口も歴史の中にあるのではないだろうか。
会場の様子
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