タイトル:子ども学プロジェクト


地位貢献:次世代自立支援の子ども学

■平成19年度実施報告



企画1公開連続講演会 (全4回)

      
子どもの自立
       ――生きるということ、働くということ

 企画趣旨
   かつて多くの子どもたちは、家の仕事を子どもなりに手伝い、その子どもの働きがあってはじめて家族の生活が
   なんとか回っていくというのが、日本社会の一般的な姿でありました。それだけ経済的には貧しいものでした。

   しかし高度経済成長を経て、経済的に豊かになると、もはや子どもたちに働いてもらわなくても生活が成り立つ
   ようになり、子ども時代はもっぱら学校制度のはしごを順調に上り、将来社会に出た先に安定した生活ができる
   ようにするための準備の期間となりました。

   そんななかでいま、子どもたちは家庭・地域の生活を担うことなく、言わば無業者として親にもっぱら保護されて
   学校年代を送り、社会へと押し出されています。
   そしてその結果、皮肉なことに、子どもたちは親の手を離れて自立することが難しくなりました。

   平成18年度の公開講演の企画では、子どもの安全・保護と自立の問題について、主に「安全・保護」の側面に
   焦点を当てて考えてきましたが、平成19年度はそれを受けて、「自立」の問題を正面に取り上げ、若者の不登校
   や引きこもりを論じるなかで、「生きるということ、働くということ」の意味について、みなさまと一緒に考えました。



 対 象
   一般
   教員、児童福祉関係者、子育て支援関係者、青少年育成関係者、大学院生 ほか

 内 容


   第1回 講演会 「働く若者たちの今 ― 労働市場の変化のなかで」

       講 師: 佐々木 賢
                   神奈川県高等学校教育会館教育研究所代表
                   日本社会臨床学会運営委員


       日 時: 2007年10月27日(土)午後1時30分〜4時
       会 場: 奈良女子大学 記念館2階講堂 (正門正面)

   【企画要旨】  
今、人材派遣業は全国で7000社を超えました。雇用者は正規が3800万人、非正規が1700万人います。
労働市場の大きな変化の中で、大卒や高卒の就職、女性の就職はどうなっているのでしょう。
フリーターやネットカフェに泊まるワーキングプアの若者、ニートやひきこもりがなぜ出たのでしょうか。
世界の労働移動が激しくなり、外国人労働者は異国でどのように働いているのでしょうか。
こうした労働の全体状況を説明します。

   開催レポート
講演では、まず、日本の経済の歴史的な変化に伴う労働市場の変化について、豊富な資料をもとにお話しがありました。また、ワーキングプアの現状について、ワンコールワーカーと呼ばれる日雇い労働者の過酷な実態の例などをもとに解説されました。さらに、日本だけでなく、世界の労働市場についても説明がなされました。派遣労働者の1日の労働で得られる賃金は、派遣先の企業が派遣会社に支払う額の半分に満たない額であり、また、消費者が飲む190円のコーヒーに対して、コーヒー豆の生産者に支払われるお金は1円にしかなりません。こうした現状の背景には世界規模の構造的な問題があり、すぐに解決できるようなものではないのですが、まずは知ることの責任を果たすべきである、と佐々木氏は訴えられました。 



  第2回 講演会 「働く前に身につけよう、返事、挨拶、生活習慣
                 ― 自立支援の現場から」


      講 師: 佐藤 透
                  自然流自立塾NOLA 

      日 時: 2007年11月17日(土)午後1時30分〜4時
      会 場: 奈良女子大学 文学部(総合研究棟)北棟N202教室

    【企画要旨】    
講師の佐藤氏は、煮詰まった家庭を一旦離れて、規則正しい生活で昼夜逆転や偏食などの生活習慣を整え、ボランティア活動や作業などで、体力や忍耐力、自尊感情などを養う共同生活寮、「自然流自立塾NOLA」を吉野町の山里で代表の自宅を開放して行っている。
その実績は、入寮した中学生の全員が半年以内に登校(成人寮生の75%が一年以内に就労)していることなどからうかがえる。
受容と共感、そして待つだけで決して解決しない、若者の社会参加に向けた現場の実践から得たノウハウを
公開する。

   開催レポート
講演では、佐藤氏が吉野町の山里で自宅を開放して行っている共同生活寮「自然流自立塾NOLA」の実践について、映像資料を交えながら説明がありました。ビデオでは、佐藤氏が寮生をただ受容するのではなく、ときには厳しく叱る様子や、不登校やひきこもりなどさまざまな背景をもつ寮生たちが、スタッフや他の寮生との関係をとおして確実に変化していく姿が見られました。佐藤氏はまた、このような寮を作るには地域との関係が欠かせないと述べ、地域の人々にうけいれてもらうためのさまざまな努力、寮生と住民との交流に関するエピソードが紹介されました。参加者からは、「学校に行くよりもずっと大変そうなNOLAでの生活を通して、子ども達がどんどん強くなっていく姿が印象的でした」などの感想が寄せられました。



 第3回 講演会 「体験学習があそびと学習と仕事を統合する
             ― きのくに子どもの村学園の「プロジェクト」のねらいと実際」


      講 師: 堀 真一郎
                 学校法人きのくに子どもの村学園・学園長
                 元大阪市立大学教授


      日 時: 12月15日(土)午後1時30分〜4時
      会 場: 奈良女子大学 記念館2階 講堂 

    【企画要旨】    
いま総合的な学習がピンチに陥っている。
世の中にはびこる学力低下論におどらされて、子どもについても学校の現場についても素人のにわか教育論者が、「もっと算数を」「もっと授業時間数を」「土曜日にも授業を」などと声高に叫んでいるからだ。

きのくに子どもの村の小学校では、授業の半分が体験学習である。
子どもと大人が話し合って、大きな仕事に挑戦し、たのしく興奮しながら、広くて深い力を身につけている。
教師中心で、教科書やドリル偏重の正反対の方式の実際を紹介する。

   開催レポート
はじめに、きのくに子どもの村学園の体験学習(プロジェクト)について、「くつろぎハウス」づくりのプロセスを例に紹介がありました。続いて、きのくに子どもの村学園の教育と通常の学校教育との違い、体験学習の形態、体験学習の基本原則(発達の各側面を総合する、衣食住に題材を求める、ホンモノの仕事をするなど)などが話されました。参加者へのアンケートでは、「学習は机の上で問題を解くというのが当たり前だと思っていたので、目からうろこが落ちた」、「教育のむずかしさ、楽しさ、おもしろさを感じた」などの感想が寄せられました。



 第4回 講演会 「新時代の大人化計画 ― 若者たちの生活の情景を見つめて」

      講 師: 小浜逸郎
                 国士舘大学客員教授・批評家

      日 時: 2008年2月23日(土)午後1時30分〜4時
      会 場: 奈良女子大学 講堂 

     【講演要旨】      
戦後、学校教育の大衆化がますます進み、教育年限も長期化の一途をたどっています。
教育の機会均等が保障されたことは素直に喜ぶべきことですが、反面、子どもから大人への節目が
見えにくくなったこともたしかです。
ひきこもり、ニート、フリーターなどの若者問題は、学齢期の長期化による「通過儀礼の喪失」にその要因の一つがあると思われます。
この講義では、教育と法と労働の三つの側面から、この問題に迫ってみたいと思います。


後援 奈良県、奈良市、大和郡山市
奈良市教育委員会、大和郡山市教育委員会、奈良女子大学附属学校部

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