平成24年度奈良女子大学卒業式並びに学位記授与式 学長式辞

 

 卒業生の皆さん、入学式でこの講堂に集まった日のことを思い出して下さい。皆さんは、あの日以来、様々な研鑽と経験を積み、所定の単位を修得し、本日ここにめでたく卒業の日を迎えられました。
 ご来賓の方々と共に、本学の役員、教職員一同は、皆さんの卒業を心よりお祝い申し上げます。
 また、本日付き添ってこられた家族の方々、あるいは遠くで、皆さんの晴れの姿を思い描いておられるご家族・ご親族の方々にも、お祝いを申し上げます。

 さて、卒業式は、学校制度の中での、ひとつの課程を終えた事を確認し、記念する場でありますが、これは、終点ではありません。これまで研鑽を積んできたことの、ひとつの区切りに過ぎません。そして、明日からは、新しい世界に入っていくことになります。

 本日は、卒業後、直ちに実社会に出ていく人や、更に大学院に進み勉学を続ける人など、様々な進路を持つ人たちが一堂に会していますが、確実に言えることは、皆さん全員が、いつかは実社会に進出していくということです。

 今、皆さんが進出しようとしている日本社会は、大変厳しい状況にあります。 かつての経済大国を支えてきた基幹産業は、開発途上国の急速な追い上げに市場を奪われ、その存続の危機にあえいでいます。国家財政は大きな赤字であり、未来に対して大きな負債を抱えています。一昨年、GDPが中国に追い抜かれて世界第3位に後退したことなどは、話題にもならなくなっています。
 しかし、歴史的に見れば、高度経済成長を遂げ、先進国になった国々において、その後、成長が停滞し、場合によっては国が衰退していく例は多々あります。そして、それらに取って代わり、新たな開発途上国が現れ、先進国を目指し発展していきます。今日の資本主義社会に限らず、文明社会というものが根本的に内包している宿命かも知れません。そういう意味では、現在の日本は成熟した先進国に仲間入りし、先進国が経験する様々な苦悩を味わっているとも言えるでしょう。
 しかし、幸いと言うべきか、昨年度に再び政権交代が起こり、安倍総理大臣の掲げた経済政策、通称「アベノミクス」が喧伝されると、不思議なほど、円安・株高となり、日本経済が回復するかも知れないとの期待感が国民にも芽生えてきました。ただし、実体経済はまだ、何も変わっていないので、本格的な回復はまだまだこれからで油断はできませんが、ここ数年の我が国を覆っていた不景気感情はすこし和らぐかも知れません。景気は気からと言われますので、 気持ちが明るくなることはよいことです。

 この様な情勢の中で、新しい門出を迎えた皆さんには、特に、前向き思考、プラス思考で人生を送ることを勧めます。未来をいたずらに悲観せず、常に明るく考えることです。 そして、このプラス思考を武器に、難しいことにも挑戦してください。 今できることだけをやっていては、現状維持のみで、進歩はありません。「一歩前に踏み出すこと」が大切です。「難しそうだ」あるいは「出来るかどうか分からない」という仕事や課題に果敢に挑戦してください。そして、難しいと思っていたことをやり遂げることで、更なる自信が生まれ、それが次の進歩の基盤になるのです。皆さんにはその潜在能力が十分にあります。また、たとえ失敗したとしても、若いときの失敗は、将来への貴重な財産です。失敗を怖がらず、前進して下さい。

 さて、ちょっと話が横道にそれますが、ここ数年のスポーツ界での、女子選手の活躍は、弱気になっていた日本人を大いに励ましてくれました。最近でも、女子スキージャンプ競技で、愛らしい女子高校生が見事なジャンプを披露してくれました。ジャンプ競技は、長い間、男子だけで女子には認められてこなかったという歴史があります。それに対し、世界中の女子選手が、たゆまぬ努力と実績を示し続け、ついに、次期冬季オリンピックから、女子ジャンプが正式種目に認められました。これまでの努力と今の自分の力を信じ、未来に向かってジャンプする彼女の表情に、私は大変感動しました。未来を切り開く女性の姿を象徴しているように感じました。
 卒業生の皆さんは、ちょうど人生のジャンプ台に立っているとたとえられるでしょう。どうか、自分の未来に向かってジャンプする気構えを持ってください。
 とはいえ、急にそんなことを言われても、現実には、これから未知の世界に進出しようとしている皆さんは、一抹の不安を持っていることでしょう。しかし、皆さんは、奈良女子大学で育った学生です。私は、本学に長く在職していますが、本学には、若い女性の集団独特の華やかさの根底に、「質実剛健」とでも呼ぶのがふさわしい「しっかりとした、芯の硬い」堅実な学風が根付いていると思っています。 本学では、女子高等師範学校以来、伝統的に、「何でも女子がやる」、あるいは「女子がやらねばならない」、という教育環境を提供してきました。時代とともにその形は変わっても、その根底は変わっていません。そして、自分たちが何でもやる事を日常的に経験する内に、それが自然に身についているはずです。それが社会に進出してから、真価を発揮します。 実際、この百年の間に、多くの先輩が社会に進出し、活躍してきたことがそれを実証していると言えるでしょう。 皆さんには、実力が備わっています。ジャンプの準備は十分に積んできています。
 ところで、皆さんは先ほどまで、この舞台の緞帳をご覧になっていたことと思います。すでに紹介があったとおり、この緞帳は、1983年に、この講堂が完成したとき、本学の同窓会である佐保会から寄贈されたものですが、その原画は、文化勲章受章者で、奈良女子高等師範学校を総代で卒業された小倉遊亀画伯が、御年87歳の時、本学のために描いて下さったものです。画面中央の大きな桜の古木に、満開の桜の花が描かれたこの原画は、作者自身から「爛漫」と名付けられました。「春爛漫」の爛漫ですね。緞帳が初めて披露されたときに本学にお出でになった小倉先生は、集まった学生達に「この桜の花は皆さん達ですよ!」と、原画に込めた思いを熱く語って下さいました。小倉先生が、ひとひらひとひらの花びらを描きながら、皆さんに送って下さった熱い思いを、卒業に際し、あらためて心に刻み込んで下さい。
 そして、これまでの自分達が積み重ねてきた努力を基礎に、大きく社会に羽ばたく意欲を持って、先輩方が築いて来られた戦列に加わり、社会の多方面において活躍してくれることを心から期待します。

                                             平成25年3月22日 奈良女子大学 学長 野口誠之

学長賞の特別授与

 2011年2月22日、ニュージーランドで発生した大地震で、語学研修中だった多くの学生さん達が、学業半ばにして尊い命を失うという痛ましい事態が発生しました。非常に悲しいことに、その犠牲者の中に、皆さんの同級生である、本学文学部の川端恭子さんが含まれていました。成績優秀で、意欲的な彼女は多くの友達からも慕われていました。もし彼女が、お元気でいれば、今日、皆さんと一緒にこの晴れの卒業式を迎えられたことでしょう。 本学では卒業要件と学位授与には厳しい基準があり、残念ながら、卒業証書・学位記を授与することはできませんが、彼女の生前の学業に対する意欲と優秀な成績に鑑み、ここに学長賞を特別に授与し、卒業に準ずる形をとることで、 改めて川端さんのご冥福をお祈りしたいと思います。
 川端さん、卒業おめでとう。



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