平成24年度奈良女子大学大学院学位記授与式 学長式辞

 

 平成25年3月22日 本日ここに、大学院人間文化研究科博士前期課程、並びに、博士後期課程の学位記授与式を執り行うに際し、本学の役員、教職員一同は、ご来賓の方々と共に、皆さんの課程修了と学位取得を心よりお祝い申し上げます。
 また、本日ご同席の家族の方々、あるいは遠くで、皆さんの晴れの姿を思い描いておられるご家族・ご親族の方々にも、お祝いを申し上げます。

 さて、卒業式や修了式は、学校制度の中での、ある課程を終えた事を確認し、記念する場でありますが、これは、終点ではありません。
これまで研鑽を積んできたことの、ひとつの区切りに過ぎません。
そして、明日からは、新しい世界に入っていくことになります。

  本日は、課程修了後、直ちに実社会に出ていく人や、更に進学し勉学を続ける人など、様々な進路を持つ人たちが一堂に会していますが、確実に言えることは、全員が、いつかは実社会に進出していくということです。実際、この百年の間に、多くの先輩が社会に進出し、活躍してきました。皆さんも、遅かれ早かれ、その戦列に加わり、社会に多方面において活躍してくれることを確信しています。

 さて、皆さんが進出しようとしている日本社会は、この頃あまり元気がないと言われています。国家財政は大きな赤字であり、未来に対して大きな負債を抱えています。経済情勢は、GDPが中国に追い抜かれて世界第3位に転落しました。貿易収支も赤字となり、西欧先進国の仲間入りをしたのはよいが、同時に先進国病の仲間入りもしたと皮肉られる状況になってきました。
 現に就職難で、ここにいる皆さんも、就活で多いに苦労したことでしょう。 しかし、歴史的に見れば、高度経済成長を遂げ、先進国になった国々において、その後、成長が停滞し、場合によっては国が衰退していく例は多々あります。そして、それらに取って代わり、新たな開発途上国が現れ、先進国を目指し発展していきます。今日の資本主義社会に限らず、文明社会というものが根本的に内包している宿命かも知れません。
 こういう時代こそ、冷静に情勢を見る必要があります。今、我が国は大きな試練に直面していると考えて下さい。今までのやり方では物事がうまくいかなくなっているように見えますが、それは、新しい時代を前にした産みの苦しみの時代であり、未来を担う若者には、その新しい時代を創る機会が与えられているのだと思って下さい。特に、皆さんのような若い女性には、これまで以上に機会が与えられてきています。男女平等を謳う日本国憲法が発布されてから約50年たった1999年に、男女共同参画社会基本法が制定され、女性の力を社会に生かすべきであるという機運は法律面からも強化されてきました。日本はこれまでも、また、今も、「男社会」と言われています。しかし、前に述べたとおり、これまでのやり方ではどうにもならないという現実の前に、これまで日本社会を構築し支配してきた男性たちの強固な基盤は揺らいでいます。逆に、長いこと抑圧されてきた人たち、特に意欲的な女性たちにとっては、自らの力を発揮する時代になってきたと言うことです。

 このように、女性の社会進出を推し進める状況下ではありますが、今、現に、社会に進出しようとしている皆さんは、未知の世界に対する一抹の不安も持っていることでしょう。経験のないことに不安をもつことは当たり前のことです。しかし、皆さんは、奈良女子大学で育った学生です。 私は、本学に長年在職していますが、本学には、若い女性の集団独特の華やかさの根底に、「質実剛健」とでも呼ぶのがふさわしい「しっかりとした、芯の硬い」堅実な学風が根付いていると思っています。本学では、女子高等師範学校以来、伝統的に、「何でも女子がやる」、あるいは「やらねばならない」、という教育環境を提供してきました。時代とともにその形は変わっても、基盤は変わっていません。そして、自分たちが何でもやる事を日常的に経験する内に、それが自然に身についているはずです。それが社会に進出してから、真価を発揮します。

 修士の学位を取得した人は、高度専門職業人として、すでに仕事のやり方を身につけています。与えられた課題にどのように取り組み成果を出すプロセスがあらゆる仕事に共通しています。社会人として十分に活躍できる素地を持っていると思って下さい。 博士の学位を取得した人は、これからは、一人前の立派な研究者・高度専門職業人として扱われます。課程博士の学位は終点ではなく、これからそれぞれの分野で活躍する上での資格証明書のようなものです。更に研鑽を積んで、活躍して下さい。

 さて、新しい門出に際し、皆さんには、前向き思考、プラス思考で人生を送ることを勧めます。皆さんは、これから様々な経験を積み重ねるでしょうが、発想を前向きに転換することにより、心が落ち着き、次への意欲もわいてきます。そして、このプラス思考を武器に、更に難しいことに挑戦してください。今できることだけをやっていては、現状維持のみで、進歩はありません。 一歩前に踏み出すことが大切です。 「難しそうだ」あるいは「出来るかどうか分からない」という仕事や課題に果敢に挑戦してください。そして、難しいと思っていたことをやり遂げることで、更なる自信が生まれ、それが次の進歩の基盤になるのです。大学院に進学した時は、不安もあったことでしょう。しかし、苦労して学位を取得した今は、満足感と共に、ある種の自信が湧いてきたのではありませんか。皆さんには、まだまだ外に現れていない潜在能力が十分にあります。本日の学位授与は、その一例にすぎません。

 さて、本日は、多くの留学生の皆さんの晴れ姿も見られます。留学生の皆さん、学位取得、誠におめでとうございます。皆さんにとって、歴史も習慣も言葉も違う外国での学業生活には、大変な苦労があったことと思います。しかし、皆さんの、一生懸命で堅実な努力が、本日ここに実を結び、大学院の学位を授与されました。これからの皆さんの人生に大きな財産となることと思います。 学位取得は、皆さん自身の努力は言うまでもありませんが、これまで、皆さんを、陰に日向に支えてくれたご家族や多くの方々に感謝することを忘れないでください。

 最後に、 本日学位を取得したすべての皆さんが、これからの新しい世界で、生き生きと活躍し、自らの世界を切り開いていく事を期待するとともに、活躍の成果を土産話として、時々、本学に里帰り(ホームカミング)して下さい。その機会を楽しみにしつつ。本日のお祝いの言葉と致します。

                                       平成25年3月22日 奈良女子大学 学長 野口誠之



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