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コロイド・界面化学の研究
-界面活性剤や高分子、金属ナノ粒子、イオン液体といったソフトマターの構造とその性質-

【ならじょ Today38 号掲載】

吉村 倫一 (よしむら ともかず)

吉村先生

理学部 化学生物環境学専攻 化学コース

【研究テーマ】コロイド・界面化学 / 界面活性剤 / 表面・界面 / X線・中性子小角散乱 / レオロジー / 泡沫 / 乳化

―― 化学生物環境学専攻のカリキュラムについて教えてください。
 化学生物環境学専攻は化学コース、生物科学コース、環境科学コースに分かれており、それぞれが連携しながら、研究を遂行するための能力や基礎学力を身に付けるために、教養科目群と専門群の二つを軸としたカリキュラムを提供しています。例えば化学コースの学生が必ず履修する「化学のための研究倫理」という科目では、研究不正を防ぐための知識を習得したり、化学をはじめ自然科学を対象とした研究では防災や安全も必要になりますので、その教育であったり、さらに、論文投稿や学会発表、企業との共同研究に必要な倫理を学びます。教養科目群の中には「有機化学概論IE」、「物理化学概論Id」、「無機化学概論IE」など、学部の化学全般に関する基礎的内容の復習から大学院の研究に必要な基礎的な内容の科目を設定しています。専門科目群は、自分の所属するコースの科目だけでなく、興味に応じて他コースの科目も履修可能になっています。
 カリキュラムの特徴としては、一科目一単位という単位設定により、一年間の科目履修スケジュールを柔軟に組むことができ、学ぶ機会を広げられるという点が挙げられます。例えば前期の前半に講義科目を集中して履修し、残りの期間を海外留学や大学外での研究活動にあてることも可能です。

―― 化学生物環境学専攻の特色や強みは何だと恩われますか。
 就職率、学部から大学院への進学率が共に高いという点です。特に化学コースは例年、6割からB割の高い進学率を誇っています。
 理学部は、学部生のうちは座学中心で基礎をみっちり学ぶことが中心になりますが、大学院では実験や理論系など実際に手を動かして研究を進めることが多くなります。近年は六年一貫教育プログラムの導入もあり、学部生のうちから大学院の授業にも触れられるようになりました。この制度によって今後大学院への進学率がさらに高くなることも期待されます。
 就職に関しては、大学院卒と学部卒では職種がかなり変わります。特に研究開発職に就きたいと思った場合は、大学院進学を必須とする企業も多くあります。その点から見ると、化学生物環境学専攻を卒業した学生は、ほほ希望通りの研究開発職に就いて、大学院での研究を通して培ったスキルを発揮し、社会で活躍していると思います。また、博士後期課程に進学する学生も毎年数名いますし、卒業生が就職後でも、博士後期課程に入学し、平日は会社で仕事をしながら週末や長期休暇の聞に大学で研究や論文執筆を進めている方もいます。このように、就職後も研究室とのつながりが途切れないのも大きな特徴です。これまでは博士後期課程に進学したくても金銭面の問題で断念する学生もいましたが、近年は「奈良女子大学博士号取得支援SGCフェ口―シップ」という博士後期課程に進む意欲のある学生を経済的に支援する制度も新設され、今後はもっと博士後期課程への進学がしやすくなるのではないかと期待しています。
 また、化学生物環境学専攻では教員一人につき数名の学生という少人数指導が基本で、実験や実習を過して就職に必要な素養を身に付けていくことが可能です。各研究室の教員と相談しながら研究テーマを設定し、自由に可能性を広げられかつ丁寧に指導してもらえるというのも、奈良女子大学の少人数指導ならではの強みではないでしょうか。

―― 化学コースや吉村先生の研究について教えてください。
 化学コースは、物理化学、有機化学、無機化学の大きく三つの教育研究分野から成り立っており、私は物理化学の分野に身を置いています。ここは、分子や分子集合体の構造、性質などを電子や原子の視点で研究する分野です。私は特にコロイド界面化学の専門分野で界面活性剤や高分子、金属ナノ粒子、イオン液体といったソフトマターの構造やその性質を研究しています。理論分野では、コンピューターを用いたシミュレションにより研究を展開している教員もいます。私は研究室にある機器を使って実験を行い、データ分析によって分子集合体や界面の構造、性質を調べています。また、学生を連れて学外で実験をすることもあります。例えば兵庫県にある大型放射光施設(Spring-8)や茨城県にある日本原子力研究開発機構内の原子炉施設(JRR-3)や大強度陽子加速器施設(J-PARC)などの施設に年に数回行き、実験することもあります。これらの施設での実験は誰でもできるわけではありませんので、学生には研究活動において、いい経験となっています。
 他にも、企業との共同研究を行うこともあります。共同研究と聞くと応用的な研究を想い浮かべるかもしれませんが、私の研究室ではあくまで基礎研究を中心としています。例えばクラシエホールディングス株式会社の「マー&ミー」というシャンプに使われている界面活性剤は、研究室で学生と一緒に基礎的な界面化学的性質のデータを詳細に取ったもので、商品化の際にこれらのデータが役に立ちました。このように、研究成果が将来的には商品化につながる場合もあり、研究へのモチベーションにもなりますし、共同研究を通して実際に企業の研究員の方とコミュニケーションを取る機会があるのは学生にとってもよい刺激になっていると思います。

―― 大学院で「化学」を学ぶ意義は何でしょうか。
 理学は、おもに自然の原理を追究する「基礎」の学問分野になります。例えば界面活性剤は洗剤や化粧品に含まれている物質ですが、企業がそういった商品を開発するときに、
 この界面活性剤の分子集合体の構造や界面での性質を知る必要があります。我々は理学という観点で、商品化する前の物質の基礎的な性質や構造を研究しているわけですが、この基礎の部分が無いと、ものづくりは発展していきません。その意味で、大学院で行う「化学」の基礎研究は、ものづくり社会との懸け橋として大いに貢献していると思います。将来、就職して応用研究や製品開発に携わるとき、化学の基礎的な知識やアカデミックな視点を大学院でしっかりと学ぶことは、大変意義のあることです。

―― 大学院を目指す学生にメッセージをお願いします。
 大学というのは自由に学ぶことができる場所です。勉学はもちろん、それ以外でも色々学んでほしいと思います。学部一二回生の時間に余裕のあるうちは特に、基礎的な科目や実験実習をきっちりと履修しながら、アルバイトやサークルなどにも積極的に参加して大学生活を楽しんでほしいと思います。学部四回生と、その先にある大学院進学後は、どの研究室でも「分からないことを解き明かす」という楽しい研究が待っています。もちろん、研究の過程には思ったような成果が出なかったり、行き詰まったりといった辛く厳しい壁にぶつかることもよくあります。しかし、その壁をどう突破するか時間をかけて悩み、考えた時間は必ず殺われるのが研究というものです。
 化学生物環境学専攻には、教科書には載っていないような刺激的な体験が待っていますので、少しでも興味のある方はどんどん進学してほしいと思います。

吉村先生

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