めざすはリチウムイオン二次電池を超える電池の開発。
注目を集める高容量の次世代全固体電池

山本健太郎

工学部 准教授

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次世代の電池「全固体フッ化物イオン二次電池」

私がめざすのは、「リチウムイオン二次電池を超える」電池材料の開発です。

そもそも、電池は正極と負極、そのあいだを満たす電解質からなります。正極と負極の間で外部回路を通って電子が、電解質を通ってイオンが移動することで充電と放電が行われます。正極、負極、電解質にそれぞれどんな材料をつかうのかによって、電池容量はもちろん、安全性やコストが変わります。

リチウムイオン二次電池は、電池の研究者たちが「なんてよくできた電池だろう」と感嘆するほどの電池です。しかし、ニュースなどでも話題にあがるとおり、発火する可能性があります。車載用として大型化するには安全性の向上は至上命題です。電池容量の面では、理論的にもっとも高容量を実現できる材料の組み合わせはわかっており、高容量化の限界が見えているのです。

私たちが研究を進める「全固体フッ化物イオン二次電池」のいちばんのアピールポイントは、リチウムイオン二次電池よりも高容量であること。さらに、高い安全性と低コストが実現できる可能性も期待され、2010年代ごろから研究が加速しています。

リチウムイオン二次電池を超える高容量を実現

全固体フッ化物イオン二次電池との関わりは、トヨタ自動車との共同研究への参加がはじまりでした。トヨタ自動車が発見した正極材料の分析に携わったのです。[▶︎関連論文

このときの結果をもとにさらに研究を進め、新しい正極材料を開発しました。電池において、容量を規定するのは主に正極側です。ですから、正極の容量をいかに増やせるのかが重要な視点。私たちの開発した正極材料は、従来のものと比べてはるかに高容量を実現できます。実際の実験データでも、ほかの電池と比べて体積が小さく、重量が軽いにもかかわらず、かなりの高容量であることが確認できました。(図1)[▶︎関連論文

図1

固体中に気体がとどまる世界初の現象

開発した正極材料は、化学の視点から見てもおもしろい現象を示しています。正極から負極に電子が流れる充電反応の際に、正極中に含まれる窒素が電子を吐き出すのです。化学式で表すと、2N3-→N2+6e-。このN2は分子状の窒素で、空気中では気体として存在します。固体のなかに分子状の窒素がとどまる、これまでに見たことのない現象でした。例のない物質ゆえに、電池以外にもさまざまな分野に応用できる可能性を秘めているのです。

実用化に向けた長い道のりを歩む

とはいえ、全固体フッ化物イオン二次電池の実用化への道のりは始まったばかりです。100%をゴールとすると、20%にも達していないのではないでしょうか。

正極材料では期待できる材料を見つけられましたが、負極、電解質では「これだ」という材料は見つかっていません。また、それぞれで優れた材料が揃ったとしても、組み合わせたときの性能は未知数です。いい材料が揃えばいい電池ができる、と言えないのが電池の世界です。

製造工程にも課題があります。従来の電池の電解質は液体。固体の電解質をつかう全固体フッ化物イオン二次電池は、製造プロセスが大きく異なります。固体電池の大量生産には、新たな製造プロセスの確立も必須条件です。

いずれにせよ、私にできることは、より優れた材料を見つけること。実現の可能性が高まり、注目度が増すにつれて、アカデミアはもちろん、企業の研究者の参入も増えて研究は大きく進歩するはずです。

学生のころから応用志向で研究してきました。電池はとくに、製品ができて役立つことがゴール。企業との協力も不可欠ですから、材料を選ぶときには高額なものや危険性のあるものは避けるなど、実用化を見据えてテーマを選択してきました。

いっぽうで、これからの研究人生、応用を度外視した挑戦がしたいと構想しています。定年退職を一つの区切りとすると、のこり時間はおよそ30年。電池の研究は、ある程度まで知見が積み重なれば、あとは製品化にむけて企業にバトンが渡ります。現在、次世代電池として開発されている電池もいずれそのフェーズを迎えるはず。そうなる前に、電池以外の研究のテーマを見つけたいのです。

私は天邪鬼な性格です。もともとそういう性格ではありますが、人が集まる王道の場所で勝負するには実力不足を感じるのです。(笑)だれもまだ見つけていないフロンティアに踏み出すべく、芽が出る場所を見極めている最中です。

オープンアクセスへの期待

オープンアクセス化は資金や所属機関の制約に関係なく、世界中の研究者や一般の人々が知識を得られるため、学術の発展や科学リテラシーの向上が期待されます。また税金で支えられた研究成果を社会に還元するという点でも重要かと思います。

Profile

博士(人間・環境学)。京都大学大学院人間・環境学研究科 博士課程修了。2022年から現職。

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