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生命を支える“超硫黄分子”の謎に迫る
~見えないシグナルを読み解く生命科学の研究~

【ならじょ Today45 号掲載】

清水 隆之

宇津川先生

理学部 化学生物環境学科生物科学コース 准教授

【研究テーマ】 分子生物学, 機能生物化学, 細胞生物学, 植物分子、生理科学, 応用微生物学

―― 清水先生の専門であり「超硫黄分子」について、専門外の読者にも分かりやすくご紹介いただけますか。
 私の研究テーマは、硫黄代謝、特に「超硫黄分子(ちょういおうぶんし)」の生物学的検知機構を明らかにすることです。硫化水素というと温泉などで嗅ぐ毒物のイメージが強いかもしれませんが、実は体内でつくられ、生命活動をコントロールする重要な分子だと分かってきました。
 さらに、実際に生理活動を守っているのは硫化水素そのものではなく、硫黄原子(S)が複数連なったポリスルフィド化合物、すなわち超硫黄分子だということが明らかになりました。2014年頃に超硫黄分子を検出する方法が確立され、人間の体内に豊富にあることも分かり、注目が集まっています。
 私の研究では、この超硫黄分子が生物にとってどのように感知され、情報伝達に使われているのかという「検知の仕組み」を解き明かそうとしています。外からの刺激に敏感に応答する光合成細菌などのバクテリアをモデルに、生命科学に共通する普遍的な仕組みに迫っています。

―― 「超硫黄分子」というテーマに、先生が興味を持たれたきっかけは何でしょうか。
 もともとは光合成細菌の酸素応答機構を研究していました。光合成細菌が周囲の環境をどのように感じ取り、代謝を切り替えているのに興味があったんです。
 そんな中で、師事していた先生から「生物学全体に普遍的な意味を持つジェネラルな研究に取り組むべきだ」という話を聞き、強く共感ました。ちょうど超硫黄分子が注目され始め、私が扱っていた光合成細菌が硫化水素を利用することもあって、「硫化水素にどう応答しているのか」を調べれば、生物学的に普遍な仕組みが見えるのではないかと考え、現在のテーマにたどり着きました。

―― 研究者としてのキャリアについてはいかがですか。
 最初から研究者一筋だったわけではなく、周囲の期待に応えながら「これなら続けていけそうだ」と思えた道を選んできた結果、現在の研究者という立場に至りました。自分でペースやテーマを管理できる研究という働き方が、自分には一番しっくりきています。

―― 大学院での学ぶについて伺います。
清水先生が所属する大学院のコースでは、どのような専門知識やスキルを学ぶことができますか。また、コースならではの特色は何でしょうか。

 私の研究室では、超硫黄分子を切り口に、生命科学や生化学の最先端の知識を深く学びます。
 同時に、専門知識以上に重視しているのが、「スキル指導」です。プレゼンテーションや文章の書き方など、研究成果を正確に伝え、論理的に思考する力を徹底的に鍛えます。
 もう一つの特色が、「一つのコミュニティにとどまらない」ことを大事にしている点です。自分の研究室や大学の中だけに閉じこもるのではなく、学会や研究会に積極的に参加し、多様な人と交流することを強く勧めています。他者との対話を通じて、自分の立ち位置や研究者としての振る舞いを学び、将来につながるネットワークを築いてほしいと考えています。

―― 学部での研究と比べ、大学院だからこそ得られる「より高度な学び」や「研究に集中できる環境」の魅力はどのあたりにありますか。
 大学院進学の最大の意義は、研究の醍醐味をじっくり味わえることです。学部での研究はどうしても「触り」で終わりがちですが、大学院では自分のテーマに腰を据えて取り組むことができます。
 修士2年間は、人生80~90年のスパンで見れば「誤差」です。この限られた時間に集中的に研究した経験は、問題解決能力や専門性としてその後の人生を支えてくれます。

―― 奈良女子大学で研究を進めるうえで、良いと感じる点はどんなところですか。
 奈良女子大学の研究室は少人数教育で、学生一人ひとりに目が届きやすい環境だと感じています。
 また、指導方針として先ほどの「一つのコミュニティにとどまらない」ことを徹底しており、学会発表など外に出ている機会を意識的につくっています。学生が悩んだ時には、研究の相談だけでなく雑談も含めて気軽に話せるような、オープンな研究室づくりを心がけています。

―― 「超硫黄分子」を研究することの面白さや、先生が研究の醍醐味を感じる瞬間を教えてください。
 研究の面白さは、「世界で自分だけが今見ている現象」を発見した瞬間に尽きます。誰も知らない生命現象の一端を、自分が初めて目の当たりにしたとき、大きな喜びを感じます。

―― 先生の研究は社会にどのように役立つと考えていますか。
 博士課程のとき、目的の遺伝子を見つけるのに非常に時間がかかり、心が折れそうになったことがありました。そのとき、意識したのは、「一人で抱え込まず、多くの人に相談する」ことです。指導教員だけでなく、学会で出会った仲間や他の先生方など、さまざまな人に話を聞いてもらうことで、新しい実験のアイデアや試行錯誤の道筋が見えてきました。この経験からも「一つのコミュニティに」とどまらない」ことの大切さを実感しました。

―― これからの時代において、大学院で専門分野を深く学ぶ意義はどこにあると思われますか。
 大学院で深く学ぶことの一番の意義は、「個性を表すキーワード」を持てることだと考えています。ある分野について「この話ならこの人に聞こう」と思ってもらえるスペシャリストになることで。自分だけの強みをつくることができます。
 特定の分野を深く掘り下げるからこそ、その中での多様性や他分野とのつながりが見えるようになり、新しい発想や共同研究の広がりが生まれます。

―― 最後に、大学院進学や研究の道を考えている方へメッセージをお願いします。
 大学院や博士課程への進学を、あまり重く考えすぎないでほしいと思います。修士の2年間は、純粋に研究を楽しめる「やりたいことができる最後の期間」と捉えてかまいません。
 悩んでいるだけで時間を使うのではなく、「まずやってみてから考える」姿勢で一歩踏み出してほしいですね。奈良女子大学には学生を支える制度もありますので、そうした仕組みも活用しながら、自分なりの研究生活をつくってもらえたらと思います。
 大学院での経験は、社会に出てからでは得にくい貴重な財産です。深く学び、大きく羽ばたいてくれることを期待しています。

清水先生

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