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砂や礫の〈声〉を聞く
~川から海へ、地形の成り立ちを読み解く研究~

【ならじょ Today45 号掲載】

宇津川 喬子

宇津川先生

文学部人文社会学科地理学コース 准教授

【研究テーマ】 地球人間圏科学, 自然地理学,地球人間圏科学,堆積学

―― 先生の研究内容をおしえてください
 川から海浜までの一帯をフィールドに、自然地理学と堆積学の視点から研究しています。
 川や海浜の砂や礫などの堆積物が、どのように生産され、運搬され、堆積しているのかという過程を調べています。
 これは川から海にかけた地形の発達や、川や海で起こる自然災害のメカニズムを理解することにつながる研究です。研究室にたくさん保管してあるのはこれまで採取した礫や砂たちで、地点や川ごとに分けてあります。
 ひとくちに「礫」といっても、実にいろいろです。一般的に、山の岩石が侵食されて、川へと流れ込み、礫や砂というかたちで堆積しますが、最初からその大きさだったわけではありません。もともとはもっと大きな岩石が、運搬される過程で少しずつ小さくなっていきます。小さくなるということは、どこかに削られた部分があるということです。その削られた部分は、また別の礫や砂となって、さらにどこかへ運ばれているはずです。そこで、様々なサイズの礫や砂を分析し、どの種類がどのくらいの割合で含まれているのか、どのような形を」しているのかなどを調べることで、その川の中でどのような生産・運搬課程が起こってきたのかを知ることができます。
 例えば礫や砂は、川で中州をつくることもあれば、砂浜をつくることもあれば、礫がゴロゴロした海岸をつくることもあります。そうした地形の違いは、礫や砂が壊れながら運ばれ、堆積していく過程が関わっています。
 私は、その過程を明らかにする研究を行っています。
 基礎的な研究ですが、データを丁寧に積み重ねていくこと自体がとても大事ですし、地形の発達との関りや、昔の地形を知ることにもつながります。

―― ホームページの教員紹介の先生のコメントに、「砂や礫の〈声〉を聞いています」書かれてありましたが、これはどういう意味なのでしょうか。
 礫や砂は、そのひと粒ひと粒に個性があります。私は川や海にいくと、礫や砂に「君はどこから来たんだい?」「君は何があったんだい?」と問いかけます。大きさや形は、その礫たちがそこにたどり着くまでの過程を反映しているので、そうした情報を「声」と表現しています。
 人には聞き取り調査ができますが、礫は話してくれません。だからこそ、どれだけ多くの情報を引き出せるかは、研究者にかかっています。私は礫から「聞き取っている」つもりなので、「声を聞いている」という表現をしています。

―― この研究をしようと思ったきっかけは何ですか。
 学部3年生のときのフィールドワークの授業だと思います。5泊6日で地形や地層の観察を行い、私は海岸砂丘を担当しました。その後、卒業論文でもその海岸砂丘を調べ続け、砂丘の地形発達や内部構造などを考えることになりました。
 砂丘を理解するためには海岸の砂を知らなければならず、海岸の砂を理解するには川の砂を知らなければならないと、調べていくうちに、関心がだんだんと運搬経路をさかのぼっていき、最終的には礫までたどり着きました。ですので、修士課程に進学したときには、研究の中心はすっかり川に移っていました。

―― 研究のやりがいや楽しいと感じることを教えてください。
 礫や砂に向き合っているときは、いつも楽しいです。今こうして礫を眺めているときもそうですが、きちんと目的に沿って試料を収集したり、分析したりする一連の作業は、すべて楽しいと感じています。
 また、礫の研究は歴史が古く、19世紀末の論文を読んだこともあります。そうした昔の研究者がどのように考えていたのかを、本や論文を通してたどるのも楽しいですね。当時の研究者が、考えながらも技術的な制約のために実際には検証できなかったことを、技術が発展した現代の方法で改めて研究できる。その面白さは特に大学院時代に知りました。

―― 研究を進める中で、特に大変なことはありますか。
 私の研究は、現場に行かなければ何も始まりません。そのため、フィールドに行けない時期はとても大変です。コロナ禍もそうですし、海外調査では現地の情勢悪化によって渡航規制がかかり、調査に行けなくなることもあります。また、そもそも適切な調査地がみつからないという難しさもあります。

―― 先生が大学院に進学してよかったと思うことを教えてください。
 もともと卒業論文では海岸砂丘とは別のテーマを考えており、どちらを選ぶべきか悩んでいました。そのとき、指導教員から「もう一方は修士課程でやればいいのでは」と言われたことがきっかけで、大学院進学を意識するようになりました。学んだり分析したりすることは好きだったので、学部4年で終えてしまうのはもったいないという気持ちもありました。
 学部時代はカリキュラムの制約やGPAへの意識もあって、学ぶこと自体は楽しい一方で、どこか窮屈さも感じていました。それに対して大学院では、時間割に余裕ができ、自分の好きなように学べるようになりました。空いている時間に論文を読んで調べものをしたり、図書館の地下書庫にこもったりするなど、「自由に勉強していいんだ」と思えたのは、大学院に入ってからでした。進学してよかったと強く感じている点の一つです。

―― 先生の今後の目標を教えてください。
 長くフィールドワークに出続けられる体づくりをすることです。崖を上ったり、川を渡ったりと体力を必要とする場面も多いため、心身ともに健康でいられるよに努めたいと思います。

―― 先生は今年から本学に赴任されましたが、奈良女子大学の特徴はどのような点にあると感じておられますか。
 こちらに来たときにまず「落ち着いて勉強できる場所だな」と感じました。
 時に印象的だったのは、時間の流れがとても緩やかに感じられることです。それは今研究室で過ごしていても思います。鹿の存在も大きいですね。パソコンで作業をしていて、一息つこうと窓の外を見ると鹿がいる。その環境は私にとって本当にうれしいものです(笑)
 それから、学生さんたちが生き生きしているように見えます。一人ひとりが、自分のお気に入りの場所をキャンパスのどこかに持っているような雰囲気があります。中庭ではご飯を食べている人や本を広げている人がいますし、図書館も居心地がよく、自分の「居場所」をつくりやすい環境だと思います。
 学ぶことだけでなく、サークルや部活動など、さまざまな活動に取り組んでいる学生さんの様子が伝わってくるので、生き生きとして見えるのかもしれません。

―― 学生へのメッセージをお願いします。
 学生である今だからこその「感性」と「気力」と「体力」を大切にしながら、のびのびとよく学び、よく遊んでください。
 私が特に重要だと思っているのは、体力や気力以上に“若いときの感性”です。大学生になると、行動できる範囲が大きく広がり、新しいものごとを見たり聞いたりする機会も増えます。その中で、「ちょっと楽しい」「なんでだろう」と感じる直観的な驚きや疑問を、ぜひ大事にしてほしいと思っています。そして、その感性をぜひ“学び”にも“遊び”にも生かしてみてください。そうした経緯の積み重ねが、きっとこれから先の自分を支えてくれるはずです。

宇津川先生

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