東洋紡株式会社
執行役員
コーポレートコミュニケーション部長
―― 東洋紡でのご経歴と現在のお仕事を教えてください。
快適性の評価や研究、商品開発に約30年携わってきました。その後、本社に移り、投資家の皆さまに対して当社の業績や事業を説明するIRを担当しました。現在は、より幅広く、広報をはじめ社内外に対する情報発信全体をまとめていくコーポレートコミュニケーション部を担当しています。
―― なぜ奈良女子大学を選ばれたのですか。
高校時代は文系クラスでしたが、しっくりこなくて、数学も受験科目に含められる大学を探していました。奈良女子大学の家政学部は二次試験が数学と英語で、受けてみようと思いました。もとは山口県にいたのですが、当時は親から「女子大だったら出ても良いよ」と言われて、女子大を探していくつか受けていました。
―― 学生時代に取り組んだことを教えてください。
被服学科には、文系の講座もあれば、理系の講座もありました。被服材料学講座、被服管理学講座、被服生理学講座、被服生活学講座、被服意匠学講座の5つの講座があり、私が面白いと思ったのが、被服生理学の講座でした。先生の持論が面白く、その講座で一生懸命勉強していました。
―― なぜ東洋紡への入社を決められたのですか。
温熱生理(生体が温度環境に適応し、体温を調節するしくみや反応を研究する生理学の一分野)の研究が好きだったので、この研究をずっと続けていきたいと思って会社を探していました。当時、東洋紡は学会活動や論文投稿を熱心にやっていて、快適性の研究で先進的な会社だと思い、志望していました。
―― 学生時代の温熱生理の研究が入社後30年間の研究に活きていると感じられた時はありましたか。
入社後、汗をかいた時の不快感である蒸れる感覚を小さくしましょう、ベタつく感覚を小さくしましょう、というテーマで研究開発に取り組みました。大学では、研究室に配属された1年間、直腸温を測り、汗をかいた時の生理反応を評価する実験をしていたので、感覚と生理反応の両側面から快適性を評価することができました。
皮膚温と体温が違うという世界で勉強したことがその後の研究のベースになっていて、会社に入っても温熱生理の知識があったのは自分だけだったので、この分野では負けないと思っていました。短い1年でしたが、今でも通用する知識を身に付けさせてもらったと思います。
―― 研究以外で大学時代の経験が活きていると思うことはありますか。
総合研究所の研究員として入社し、現在は研究から離れて本社で仕事をしていますが、別の仕事を任されても抵抗なく受け止められたのは、大学の時から文系も理系も関係ないという風土で育っていたからだと思います。また、女子大は当然女性ばかりの環境で、仕切り役も女性、決めていくのも女性。全部自分たちでしなければならない環境で育ったことは、社会に出てからも、性別を意識せずに進むことができた要因なのかなと思います。
―― 大学時代にリーダーをされたご経験はありますか?
ありませんでした。昔の先輩から見ると、私がこんなに長く働いているとは思ってないと思います。性格はふわっとしていて、仕切るタイプではありませんでした。今も先頭に立っていくタイプではないことは変わっていないので、皆の意見を聴きながら、よい方向にまとめていこうとしています。
―― これまでのお仕事で大変だったことを教えてください。
IR(投資家向け広報)部門に異動した当初は、それまでの研究職と考え方や進め方が違うことに対し、辛くはないけれどもがむしゃらでした。研究は、ハッとひらめく時があり、就業時間に関係なくずっと研究テーマのことが頭にあるような状態であるのに対して、IRの投資家対応は、決算発表日が決まっており、まとめた情報が社外にすぐに公開されます。緊張感を常に持ちながら、短い時間で正しい情報を集めて分かりやすい資料を作らなければなりません。徐々に慣れてきて、今ではどちらも面白いですね。
―― フィールドが変わった際に意識されていたことはどんなことですか?
社外発表に向けて、社内情報を集め、整理していきます。その過程で間違っていても怒られても何を言われても構わないのですが、社外に情報が公開される段階では、とにかく正確で分かりやすいものにすることを意識しています。ひとたび発信すると、「東洋紡が」「社長が」という主語で見られますので、意識して気を付けなければならないと思っています。
―― 男性が多い製造業という業種の中で、部長や新たな仕事を任されてこられたと思います。ご自身で思う、「強み」や「軸」を教えてください。
快適性の研究では一定の評価をいただいてきた自負があり、この分野では負けないという軸があります。仕事が変わっても、そういう経験をしてきた自分だから、ほかのことでもやれるという軸ですね。会社では、研究成果が最終製品につながらない人も多い中で、温熱生理の研究が、汗をかいても濡れた感じが小さい「アルティマ®」というポリエステルと綿のニット生地開発に繋がり、商品になって売れ、社長賞を取れたということは自信に繋がりました。周りからも、社長賞を取ったことで「一人前になったね」と言われ、会社のために役に立ったと思うことができ、嬉しかったです。
しかし、やはり女性は少なく、女性管理職の比率は5%程度にとどまります。私は男女雇用機会均等法で入社した1期生。当時、総合職で女性社員が12名入りましたが、もう誰もいなくなりました。その後も総合職の女性はずっと入ってきているけれども、結婚や子育てで辞める人が多く、私の下の世代の女性社員が少ないのが現状です。会社としては、女性の管理職を増やそうとしていますが、もう少し時間がかかりますね。
―― 同じ時期に入られた女性の方がみなさん辞められて、孤独を感じるときはありませんでしたか。
孤独というより、この人が会社に残っていたら、もっとすごいことができて、会社もさらに変わっていたのにもったいないなと思います。これから入ってくる人達にはぜひ続けてほしいですね。女性が働きやすい環境を作ってきているので、とにかく続けてほしいです。
―― 今のやりがいは「部下が育ってくるのを見るのが楽しい」と部下を大切に思われる石丸さん。今後入社される社員の方々やこれからの学生に期待する事はありますか?
何でもやってみてほしいです。好きなこと以外のこともしてほしいですし、勉強もしていてほしい。会社はひとつのことだけやっておけば大丈夫かというと、そうではなくて、様々な知識が必要になります。基礎学力があり、その上で色々なことができると、もっと幅広いことができたかもしれないなと思うので、若い皆さんには色々な事に挑戦してほしいと思います。
―― 奈良女生に向けてエールをお願いします。
女子大は必要かという議論がありますが、私は、女子大は大事だと思っています。女子大だからこそ、一通りのことを全部自分でしなければならないので、自立心が育つと思います。自立心を養う場として、女子大はとてもいいと思いますし、奈良女で頑張ってほしいなと思います。
取材日:2025.09.04

生活環境学部・山田 奈穂さん
快適性の研究から、執行役員へ。活躍されるフィールドが変わっても恐れず前向きに取り組まれ、周りの方とコミュニケーションを大切にしながらグループをまとめる石丸さんの姿はとてもいきいきとされていて、とても魅力的な方でした。
女子大は自立心を育める場であり、これからも必要だとおっしゃっていたことが印象的で、改めて4年間を奈良女で過ごすことができて良かったと嬉しく思いました。来年度からの社会人生活でも奈良女での学びを活かして、日々成長できるように頑張ります。