朝日放送グループホールディングス株式会社 執行役員
/朝日放送テレビ株式会社 取締役
―― 奈良女子大学に通っていて良かったことはなんですか?
一番良かったのは、共に学んだ同級生や先輩方が、本当に素晴らしい方ばかりだったことです。奈良女子大学は、女性だけで学ぶ環境であることが、むしろ強みになっている大学だと思います。学内では自然に、誰かがリーダーシップをとり、誰かが支えるという役割分担が生まれます。そうした環境のなかで、主体的に考え、行動する力が育まれたことは、今も自分の糧になっています。
―― 学生時代に取り組んでよかったことはなんですか?
学生時代を振り返って、取り組んでよかったと感じるのは剣道です。大学生活では、何か一つ芯を持って取り組める活動をしたいと思っていました。一人暮らしということもあり、放っておくとつい怠けてしまう性格なので、自分を律する意味でも続けられるものとして選んだのが剣道でした。
剣道を通して得られた学びは、大きく3つあります。
1つ目は、基礎体力です。仕事をする上でも、体力があってこそ頑張り続けられる場面が多く、改めて土台の大切さを感じます。
2つ目は、精神力と集中力です。剣道の試合は約4分で勝敗が決まるため、その短い時間に全力を注ぐ集中力が求められます。仕事でも、ここぞという時に集中してやり遂げる力が大切で、その点で剣道の経験は大いに役立っています。
3つ目は、物事を俯瞰して見る力です。1対1の勝負のように見えても、実際には相手全体を観察し、どこに隙があるかを見極める必要があります。全体を見渡す視点と、要点を見極める視点。その両方を意識する姿勢は、現在の仕事にもつながっていると感じています。
―― 現場時代の代表作を教えてください。
ゼロから企画・制作したのが、『正義のミカタ』という番組です。当時、土曜日の朝の『ミカタ』を放送している時間帯は視聴率が伸び悩んでおり、いかにその枠を強くするかが最大の課題でした。視聴率が低ければすぐに番組が終了してしまう状況のなか、「まずは1年番組を続けること」を目標に、毎週試行錯誤を重ねながら制作を続けました。その積み重ねが実を結び、番組は今も10年以上続いています。苦労も多かった分、特に思い入れの深い作品です。
―― キャリアにおける転機を教えてください。
最初の大きな転機は、出産でした。子どもに誇れる大人でありたいという気持ちが芽生えたことが、何よりも大きかったと思います。子育てをしていると、自分の思い通りにならないことが多々ありますが、そうした出来事を受け入れられるようになったことで、逆境を乗り越える力が自然と身についたと感じています。
次の転機は、番組の責任者であるチーフプロデューサーに就任した時です。当時、初めての女性チーフプロデューサーということで、「本当に大丈夫なのか」と心配されることも多くありました。私は強いリーダーシップで引っ張るタイプではなかったこともあり、判断に迷う場面も少なくありませんでしたが、その経験から大きな学びを得ました。それは、「一人で抱え込まなくてもいい」ということです。自分ができないことは得意な人に任せ、その分、自分は相手の力を生かすサポートをすればよい。そうしたチームづくりの大切さを実感したのが、この時期でした。
その後、制作部長に就任しました。こちらも初の女性制作部長ということで、周囲からの期待と不安が入り混じるなか、特に心がけたのは「部下の声を丁寧に聞くこと」でした。悩んでいること、挑戦したいことなどをしっかり聞き取り、一緒に考えるよう努めました。現場を支えるのは一人ひとりの思いだと感じていたからです。後になって「話を聞いてもらえたことで、自分で考えて動けるようになりました」と言ってもらえたことは、大きな励みになりました。
最後の転機は、今から約3年半前に経理局長に就いたことです。経理の経験がまったくない状態で局のトップを任され、最初は戸惑いの連続でした。仕事の全体を把握しなければマネジメントはできないため、「知らないものは仕方がない」と割り切り、分からないことは率直に尋ねるようにしました。すると、少しずつ組織と自分の歯車がかみ合うようになっていきました。同時に、「今はできなくても、必ず力をつけて役に立てるように努力します」という気持ちで学び続けました。そうした姿勢が周囲にも伝わり、「頑張っていますね」と声をかけてもらえるようになった時、改めて仕事に対して真摯であることの大切さを感じました。
どんな場所にいても、与えられた役割を誠実に果たせる人間でありたい。努力を惜しまない姿勢だけは、これからも大切にしていきたいと思っています。
―― 最後に後輩に向けたエールをお願いします。
人生を振り返って強く感じるのは、「人生に正解は一つもない」ということです。若いうちはもっと柔軟に、さまざまなことを吸収してほしいと思います。
就職活動の時期になると、「どんな勉強をしておくと良いですか」と尋ねられることがありますが、私は「何でもいい」と答えています。学生時代は、自分の興味に素直に向き合える一番自由な時間です。いろんな経験を重ねることで、きっと何か一つ、自分にとって大切なものが見つかるはずです。その積み重ねが、10年後、20年後に必ず自分の糧になります。
「自分にはできない」と最初から決めつけず、ぜひ挑戦してみてください。やってみると、意外とできたという経験が、自信につながります。
そして、日本だけでなく、世界にも目を向けてみてください。いま見ている世界だけがすべてではないことに、きっと気づくと思います。広い視野を持って、たくさんの価値観や考え方に触れてほしいと思います。
何が正解かを探すよりも、自分なりの答えを見つけていく。その過程こそが、人生を豊かにしてくれるのだと思います。
取材日:2025.10.03

文学部・岩井 優月さん
朝日放送で活躍されている先輩へのインタビューということで、初めは緊張していましたが、熊田さんのあたたかい人柄にすぐに惹きつけられました。実際に私が感じた熊田さんの人柄や、仕事に対する真摯な姿勢が伝わるようにと思いを込めて、記事を執筆させていただきました。インタビューをまとめるにあたって、「どうしたら伝わるのか」というのは最大の課題でしたが、熊田さんの思いが少しでも伝われば幸いです。