卒業生インタビュー

男女平等の種を植える
― 奈良女子大学で学び、考える教育現場の環境づくり

九州大学
副学長・先導物質化学研究所主幹教授

玉田 薫さん(理学部卒)

玉田 薫

―― 現在の研究内容と仕事内容を教えてください。
 九州大学・先導物質化学研究所で、化学・物理・生物の学際領域において、化学合成によるナノ粒子の合成研究を行っています。「ナノ(nm)」は「ミリ(mm)」の100万分の1の大きさです。1ナノの粒子は単体では吹き飛んでしまいそうなほど小さいですが、10ナノ程度の粒子を合成して、自己組織化し膜になると、粒子同士の相互作用によって特別な特性が出ます。それを金属や半導体で実施し、新しい特性の発見と、その特性を用いた応用研究に取り組んでいます。新しい発見が多く、ノーベル賞の獲得にもつながっている研究分野です。
 九州大学には、2011年に教授として着任し、2017年から副理事、2020年からは副学長を務めています。

―― これまでのご経歴をお教えいただけますか?
 奈良女子大学理学部を卒業後、企業に就職し、7年間研究開発に携わりました。1991年に渡米し、帰国後は国立研究開発法人・理化学研究所で働き始めましたが、2年後に再び、オーストラリア、ドイツへと渡り、さらにシンガポールでの経験を経て、産業技術総合研究所で研究をしました。2003年からは東京工業大学で助教授を務め、その後、東北大学、九州大学の順に教授として着任し、現在に至ります。

―― 企業と大学では、それぞれ研究の仕方や視点においてどのような違いがありましたか?
 企業ではNEEDSに沿った研究が必要になり、大学ではSEEDSを生み出す研究が行われます。企業では、売るための物を作り、研究成果がすぐに製品に繋がります。一方で、大学では、企業ではなかなか取り組めない基礎研究を行います。大学の研究成果をもとに、企業が社会の要請に応じた製品を開発するという関係が成り立ちます。

―― 海外と日本とでも、研究方法は異なっているのでしょうか?また、さまざまな国の研究方法をご覧になって、どのようなことをお考えになりましたか?
 全然違いました!最初に訪れた、アメリカのウィスコンシン州での、のどかな生活や研究が楽しく、いろんな国に行ってみたいと思うようになりました。次に訪れたオーストラリアは、アメリカと同じ英語圏ではあるものの、研究方法は全く違っていて。じゃあヨーロッパはどうなんだろう?と、ドイツを覗くと、ドイツもやはり違っていて、最後に訪れたシンガポールもまた違いました。
 国によって研究方法が異なる背景には、教育システムの違いも関係していると考えています。小中高の教え方も違えば、その延長線上である大学での教え方・研究方法も異なります。私の結論としては、どの国の研究方法も独自の良さがあるので、それぞれの方法でやればいいと思っています。どの国にも、長所と短所は同時にあります。それを補い合うことが、国際共同研究の意義だと思います。同じ方法論を持つ国同士で協力をしても、大きな変化はありませんが、異なる方法論を持つ国同士が、互いの短所を長所で支え合うことで、より大きな成果を生み出せます。国際的な情勢も意識しつつ、自分らしさを忘れずに、研究を進めることが大切と考えています。

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―― 企業に就職された後、国立の研究所や大学に移られたのはなぜでしょうか?
 きっかけは、海外に行ったことです。企業に勤めていた当時、社内結婚をした夫が、社内海外留学制度を利用してアメリカへ渡ることになったのですが、当時女性はその制度の対象外でした。私は日本に残るか、会社を辞めてついていくかの2択を迫られ、最終的に退職してアメリカへ同行しました。ところが、帰国の時期にちょうどバブルが崩壊し、勤めていた会社に戻ることができなくなってしまいました。会社への再就職が難しいとなると、研究を続けられる場所は研究所か大学しかないと思い、研究所か大学で働くために、奈良女子大学で論文博士号を取得しました。
 その後、国立の研究機関で働き始めましたが、当時はまだ男女平等とは言えず、思うようにリーダーシップを取れない悔しさがあり、再び海外に渡りました。しばらくして、日本でも男女平等が考えられ始めたのを感じ、帰国後は産業技術総合研究所でチームリーダーを務めましたが、自分の可能性をさらに広げたいと考え、より自由に研究と教育ができる大学へ移ることにしました。現在、九州大学では副理事や副学長を務めるようになり、研究と大学運営の両面から教育・研究環境の向上に取り組んでいます。思い描いた人生を歩めていると感じています。

―― 学生に教えながら、研究や副学長の仕事をすることは大変だと思います。どのように継続されていますか?
 自分の成長に合わせて少しずつ仕事の幅を広げながら、無理のない範囲で、できることを着実に進めるようにしています。方法は単純で、毎週やることを決めてメモに書き、終わったら消していく。その繰り返しです。
 長期的で大きな目標は、あまり立てません。取り組む前にあれこれ考えるのではなく、終わったあとに自分がやってきたことを振り返って、満足するタイプです。誰しも始める前はゼロですが、何かをすると必ずプラスになります。人生では行動の積み重ねがすべて加算されていき、絶対に減りはしません。毎日やるべきことを続けていくと、30年後には、自分でも自分の軌跡を見て「すごいな!」と思えるほど経験が増えています。
 また、一度経験したことは、次に取り組むときに問題処理能力が上がり、時間的余裕が生まれます。その余裕に新しいことを加えることで、どんどんできることが増えていきます。過去は変えられないですが、未来はやればやっただけ上向きになるのですから、あとは自分次第だと思うと、人生バラ色じゃないですか?

―― 今まで、様々な選択をされてきたと思います。複数ある選択肢から、自分の歩く道を選ぶ時に大切にされているお考えはありますか?
 とりあえず誘われたら必ず参加しますし、頼まれた仕事は全部やります。やってみて無理だったなら、後で変えても辞めてもいいので、始めるときはあまり深く考えません。
 新卒で就職した企業との出会いも、たまたま就職相談室の床に落ちていた企業のチラシを拾ったことでした。東京で働きたいと思い、就職活動をしていたところ、その用紙の裏面に「東京研究所」って書いてあって。勢いで受けたら通ったので、そのまま就職しました。実際は東京ではなく横浜だったのですが、それも良い思い出です。

―― 今まで様々な方と関わってこられたかと思いますが、特に大きく価値観が変わった出来事や出会いはありましたか?
 すべての出会いがかけがえのないものだったと思います。偶然の出会いを通じて、人間関係は広がり、人生は出来上がっていきます。
 アメリカに滞在していたころに、所属していた学会の分科会誌を毎号励ましの言葉とともに送ってくれた方が、後に産業技術総合研究所で上司になったこともありましたし、セミナーで偶然出会った、性別を問わず対等に接してくださった方が、その後、理化学研究所・東京工業大学で上司になったこともありました。九州大学に赴任する際にも、同大学の研究者の方々と、自然にご縁がありました。不思議なことに、相性がいい人や考え方が似ている人は、知らぬ間に繋がって、人生のうちに何度も登場します。偶然出会った人が、今後一生関わる人になるかもしれない。どんな出会いも「関係ない」と切り捨てず、一つ一つを大切にしたいと思っています。

―― 奈良女子大学へはどうして進学されたのでしょうか?
 ご縁があったからです。大学進学の際、父から「地元を出るなら」といくつか大学を挙げてもらった中の一つが、奈良女子大学でした。父がかつて教わっていた先生に、奈良女子大学出身の方がいて、その先生が素晴らしい方だったことが影響していました。親元を離れる不安がある中で、女子大で、寮があり、国立で学費も高くないという条件が揃っていたので、奈良女子大学を選びました。

―― 学生時代の学びが今の先生の人生にどう生かされていますか?
 奈良女子大学では、女性が主体的に学び、活躍する力を育む教育が行われていると思います。社会では知らず知らずのうちに、女性がサポート役に回ることが多いのが現状ですが、奈良女子大学では、学園祭やクラブ活動、ゼミまですべて女子だけで運営します。そのような環境は、共学では得ることのできない貴重な経験で、卒業するときには、「○○やりたいひと!」という呼びかけに、自ら手を挙げることができる女性に、自然と成長できるのではないでしょうか。

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―― 奈良女子大学は女性がリーダーシップをとれる場所かもしれませんが、共学の大学では、自然にそれが行われない場合もあると思います。学生、特に女子学生に対して、どのように積極性を促しておられますか?
 言葉で伝えることも大切ですが、それ以上に重要なのは環境づくりだと思います。私の研究室では、一番上に立つ私が女性なので、学生も自然に男女が対等であることを学んでくれています。
 副学長として大学全体のことを考えるときも、学生の生活環境を整えるため、まず教員の意識改革から始めました。着任後すぐに、論文業績の男女比をデータで公開し、女性研究者の成果が高いことを示すことで、女性が重要な戦力であることを示しました。
 さらに、男女がお互いに活躍を認め合う環境づくりの一環として、研究者向けにSENTAN-Qという国際研修を設けました。この制度では、毎年10名を研究者から選別し、2年間の海外研修と、その後の昇格を約束しています。性別に関係なく優秀な人材を評価し、その成果を可視化することで、男女が対等であることを受け入れてもらいたいと考えています。研修生の選定基準や研修内容は大変厳しいものですが、その分、参加した研究者は優秀な人材として評価され、活躍の機会が与えられます。男女がお互いを認め合える環境が整っていくことで、学生も平等に学ぶ環境が整っていくと考えています。
 また、私の考え方としては、男女不平等の根本には、性別そのものではなく、マジョリティとマイノリティの問題があると思っています。女性が8割を占める環境では、むしろ男性が遠慮がちになってしまうこともあります。つまり、不平等の本質は、数の偏りにあります。大学や社会でも、男女の比が同じになれば、不平等も自然と解消されるでしょう。ただし、その段階に達するまでは、「女子枠」などの女性を増やす仕組みが必要だと感じています。これはあくまで一時的な措置であり、数の不均衡が解消されれば不要になるものだと考えています。

―― 研究者を志さない学生ももちろんいると思うのですが、大学では学生にどのように学んでほしいとお考えですか?
 研究室は研究をする場であると同時に、社会を学ぶ場所でもあります。研究を通じて、物事の本質を考える力が養われます。将来どのような道に進むとしても、社会に出て求められるのは、問題を見つけ、それを解決していく力です。「問題を見つける目」は、文系理系問わず、研究を通して鍛えることができます。大学の研究で考える問いは、難問ばかりです。必死に頭を働かせて、仲間たちと問いを共有し、自分とは異なる視点や解き方を学ぶ。その経験があるかないかで、社会での活躍度合いは大きく変わってくるものだと思っています。

―― 最後に、奈良女子大学の後輩にエールをお願いします!
 奈良女子大生であることに誇りを持って、いきいきと活躍してください!奈良女子大学は本当に素晴らしい大学です。そこで学生生活を送れたことは、一生の財産になると思います。今を大切に、そして社会に出てからも、自分らしく歩み続けてください!

取材日:2025.10.06

― 学生記者の声 ―

文学部・正岡 歩実さん

玉田さんは終始笑顔で、堂々とした佇まいでお話をしてくださりました。お話を伺う中で、その姿は、玉田さんが挑戦を重ね、目の前のできることに丁寧に取り組んできた積み重ねの表れであると感じました。
学内から不平等なく活躍できる環境づくりを進め、その輪を社会全体に広げていく玉田さんの姿に触れ、私自身も考え方を見直すことから、社会は変えられるのかもしれないと、勇気をもらえました。


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