株式会社長谷工コーポレーション 取締役執行役員(経営管理部門サステナビリティ推進担当 兼 グループシニア事業管掌)
―― 現在の仕事について教えてください。
現在、株式会社長谷工コーポレーションの取締役執行役員を務めており、経営管理部門でサステナビリティ推進を担当するとともに、グループのシニア事業を管掌しています。
私は、奈良女子大学の大学院(家政学研究科・住環境学専攻)を修了後、長谷工コーポレーションに入社しました。配属先は社内シンクタンクである総合研究所(その後、株式会社長谷工総合研究所に改組)で、高齢者居住をテーマにした調査研究を長く行ってきました。日本の企業ではさまざまな部署を経験してジェネラリストとしてのキャリアを積むということも多いと思いますが、私の場合は入社以来、一貫して総合研究所で調査研究業務を担当してきたのが特徴です。
長らく調査研究職に携わってきたのですが、2023年6月に長谷工コーポレーションの取締役執行役員に就任し、それまでとは業務内容や立場が大きく変化しました。現在は、会社全体の事業活動を俯瞰し経営の意思決定と監督を行うとともに、日常的な事業運営の責任者として実際の業務執行も担当し、新たな分野・テーマにも積極的に取り組んでいます。
―― なぜ、奈良女子大学を選ばれましたか?
子どもの頃から「住まい」というものに強い関心がありました。父が転勤の多い仕事をしていたため、いろいろな地域に住んできた経験が大きく影響していると思います。高校生の頃にはすでに、「進学するなら、住居学について学べる大学に行きたい」と明確に決めていました。
国公立大学で住居学を学ぶことができ、しかも文系から受験できる大学は限られていました。その中でも当時の奈良女子大学家政学部住居学科が、自分の興味や関心に最も近い内容を多面的に学べるのではないかと感じ、受験を決意しました。
―― 現在の仕事のつながりも踏まえて、学生時代に取り組んだことについて教えてください。
学生時代は「高齢者の住まい」に関する研究に取り組みましたが、長谷工に入社してからも自分が携わってきた多くの仕事に直接的につながることが多く、それは現在の立場になっても変わりません。今でこそ超高齢社会という言葉が一般的になっていますが、私が学生の頃はまだそれほど注目されているわけではありませんでした。それでも、私が当時所属していた研究室では、公的な福祉施設のみならず、民間企業でも参入できる分野の高齢者住宅についても研究を行っていました。
住まいに関する研究では、主役はあくまで人であり、周囲の生活環境や住環境が人々にどのような影響を与えるのかという視点をもつことが大切です。長谷工では、研究室で手がけた高齢者住宅のフィールドワーク調査などの経験も活かしながら、これまで仕事を続けてくることができました。そうした人間中心の視点で「住まいと暮らし」を捉えるという姿勢を学んだことは、現在でも大いに役立っています。
もっとも、誰もが学生時代の研究をそのまま仕事に結びつけられるわけでは必ずしもありません。大学と企業では研究の目的や求める成果、制約条件などが大きく異なりますが、研究を通じて培われる思考と行動の基盤は、企業に属してからもあらゆる場面で強力な武器になると思います。
―― 大学院に進学することの魅力はありますか?
私が大学院に進もうと思ったきっかけは、恩師である故・湯川利和先生の研究に強く惹かれたからです。学部時代の卒業研究では、湯川先生のもとで「パーソントリップ調査」(人の移動や生活行動を分析する研究)に取り組みました。奈良女子大学の卒業生を対象として、社会人としての日々の行動を追跡し、生活環境との関係を評価・分析するという内容でした。大学院進学後は、同じ湯川研究室で1970年代から継続して行われていた民間の老人ホームや高齢者住宅の調査に携わりたいと思い、学部時代とは研究テーマを変えて挑戦しました。
今は「人生100年時代」と言われています。そのような時代だからこそ、じっくり学んだり学び直したりする機会を持つことの価値はより高まっていると思います。自分の興味や関心を中心に突き詰めて学ぶという経験は、人生でかけがえのない財産になります。かつては、博士課程まで進むとアカデミアの道で生きるしかないというようなこともありましたが、今は企業でも修士・博士人材を積極的に求める時代です。実際、自分が企業経営に関わる立場となってから、変化の激しい時代に国際的に競うためには修士・博士も含めた専門人材や多様な能力・キャリアを持った人材が不可欠だと強く感じています。
また近年は、いったん社会に出てからも「リカレント教育」として学び直す機会が増えています。学ぶ目的やタイミング・きっかけは人それぞれですが、大学院進学や社会人になってからの大学・大学院での学び直しなども柔軟に考えながら、将来の進路やキャリアを選択していってほしいです。
―― 奈良女子大学に通っていて良かったこと、好きだったと感じた点はありますか?
奈良女子大学はこぢんまりとしたキャンパスながらも、全国から学生が集まり、留学生も多く在籍している、多様性にあふれた大学です。その温かく落ち着いた雰囲気や、さまざまな背景を持つ人たちと自然体で関わることができる環境が自分にはとても合っていて、大好きでした。すべての学部が同じ敷地内に集まっているので、分野を超えて先生方や学生と交流できるのも大きな魅力だと思います。
また、奈良という歴史ある土地に立地している点も印象的です。これからの大学は時代の流れに合わせて持続可能な経営の視点を持つことが不可欠だと思いますが、そうした中で、奈良女子大学は伝統ある奈良の地にどっしりと腰を据えながら、新しい時代へとしっかりと歩みを進めているように感じられ、そうした姿がとても素敵だと思います。
―― 「奈良女子大学」出身として社会でどのように評価されていると感じていますか?
1908年に設置された奈良女子大学(当時・奈良女子高等師範学校)は、国が女性の教育者を養成するために創立したという歴史的な背景があります。そのため、社会的にも信頼性の高い教育機関として高く評価されていると感じます。
また、少人数教育の良さや、奈良という落ち着いた環境に全国から学生が集まって学んでいることに魅力を感じる方も多いように思います。卒業後それぞれの分野で活躍しているOGも多数いて、「確かな力と意志を持つ人材を輩出する大学」という評価を社会から得ていると感じます。
―― やりたいことを実現するために努力してきたことを教えてください。
私は、社会人になってからも調査研究という専門職として長らく仕事をしてきました。ただ、専門職であるがゆえに、ともすれば視野や関心領域が狭くなりがちという課題があるとも思います。そこで若いうちから、異業種の勉強会や人材交流会に参加したり、同じ分野・テーマに取り組む他企業・他団体の人たちと積極的に情報交換をしたりして、さまざまな世界に目を向けるよう心がけてきました。
もともと私は内向的な性格なので、居心地の良い環境にいるとそれに満足して歩みを止めてしまいがちです。だからこそ、意識的に外に出て、さまざまな考えや経験を持つ人たちと関わることで、多くの気づきや学びの機会を得るよう努力してきました。
―― 組織づくりに関する経験談を教えてください。
これまで私は、専門分野のスペシャリストとして責任を果たすことに特化してきました。しかし現在では、会社全体を広く見渡し、さまざまな事業や取り組みに対して経営判断を下していく立場となり、幅広い視野を持った上での戦略的な思考力や決断力が求められるようになりました。
分からないことや戸惑うことも少なくありませんが、分からないことは一から勉強して知識・知見を深めるとともに、周囲の人たちの力も借りて積極的・前向きに仕事をするという姿勢を大切にしています。社内にはさまざまな人材がいます。どのような特性やキャリア・強みを持った社員がいるのかを把握しておくことで、組織として課題が生じたときにもよりよい問題解決や対応をするための判断につなげることができます。
長くスペシャリストとしてのキャリアを歩んできましたが、今は気持ちを切り替え、会社の意思決定や経営戦略の実行を担うという役割に挑戦しながら、組織全体、個々の社員の力を最大限引き出すことにも意識して取り組んでいます。
―― 後輩に向けてエールをお願いします。
大学時代は、社会人としての完全な独り立ちはできないかもしれませんが、新たな世界に踏み出す第一歩ともいえる特別な時期だと思います。高校までとは違い、人間関係が一層広がり、世界の複雑さや多様さを知る時期でもあります。自分の考えや行動次第で、それまで経験したことのない新しい世界に触れられる貴重な時間だと思って、さまざまなことに関心を持って果敢にチャレンジしてほしいです。
長い人生の中では、せっかくの機会に気づかないまま通り過ぎてしまうことが多々あります。あるいは、あれこれ迷っているうちに行動のきっかけを逃してしまうこともあるでしょう。「チャンスの神様には前髪しかない」という言葉があるように、チャンスかもしれないと思った瞬間に、勇気を出して積極的に行動を起こしてほしいです。たとえ結果がうまくいかなかったり、自分の思い通りにならなかったとしても、そのときの経験は必ず糧となり、将来の成長につながります。
これからの社会を担う若い皆さんが恐れずにさまざまなことに挑戦し、自分の可能性を広げていくことを心から応援しています。
取材日:2025.10.10

工学部・石井 佐和さん
取材を通して、現状に満足せず挑戦を続けることの大切さを学びました。私自身、吉村さんと専門分野が近いこともあり、新しい分野に果敢に挑戦しながら視野を広げつつ、同時に専門性を深めていく姿勢は、まさに理想とするロールモデルだと感じました。変化を前向きに受け止め、自ら学び続ける姿勢は、仕事をしていくうえで欠かせないものだと思いました。今回の取材で得た学びを、日々の行動に活かしていきたいです。