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 「服飾見地奈良」では、奈良女子大学生活環境学部生活文化学科の岩崎雅美先生に、 シルクロードから伝わったファッションのお話を伺った。

 現在のファッションの中心はミラノやパリであり、コレクションで出されたものが12年後に流行するといわれている。では、奈良時代にはどうだったのであろうか。誰もが知る聖徳太子像や吉祥天像の絵からファッションを読み解いてみよう。



■紺玉の腰帯

 えっと、これが紺玉の帯ね。紺玉っていうのはラピスラズリのこと。奈良時代の交流、シルクロードを特徴づけている服飾品ね。シルクロードを伝わったのは明らかなの。ラピスラズリはアフガニスタンのパダフシャンからしか出ないから。具体的には聖徳太子に着装例が見られます。

  私ね、奈良女へ来てから10年の間にテヘラン2回、イラン2回、アフガニスタン1回、 パキスタン2回、インド2回、中国新疆ウィグル自治区7回行っているんですよ。シルクロードという名前はロマンチックな響きだけど、行ってみたらたいへん厳しいところですよ!でもね、砂漠の中をとことことことこ歩きながら行ったと思うと、長い時間かかって運ばれたと思うと、それはそれで高級感が増すわよね。



 

紺玉帯…紺玉帯は、帯、つまり今でいうベルトに、四角く加工されたラピスラズリがあしらわれたもの。紺玉とはラピスラズリのこと。
平成11年度の正倉院展にて展示された。

聖徳太子像…小学校から、聖徳太子といえばこの絵である。よく見てみると、なるほど、玉のついた帯をしめていることが分かる。おしゃれだ。
弾弓(だんきゅう)…弾弓は丸玉をはじいて飛ばす遊戯用の弓。宝庫には2張が伝わっている。弓身の中央やや下方に握り部(革(かわ)は後補(こうほ))を作り、丸玉の座を設けた細い竹製の弦(つる)を取り付けている。弓身の内側は3面 に面取(めんと)りし、詳細な墨筆で散楽図(さんがくず)を描いている。散楽は古代中国で流行した奇術、軽業(かるわざ)、滑稽(こっけい)なおどりなど を取り入れた民間芸能で、唐の都・長安(ちょうあん)の寺院では斎日(さいじつ)にしばしば行われた。わが国では東大寺大仏開眼会(かいげんえ)でも行わ れている。図は見物人、口上(こうじょう)、奏楽(そうがく)とおどり、竿(さお)登り、力士、弄玉(ろうぎょく)などが縦に連続して描かれている。各人 物は小さいながら精彩に富み、優れた画技を見ることができる。(奈良国立美術館HPより抜粋。以下で画像をみることができますhttp://www.narahaku.go.jp/exhib/2007toku/shosoin/shosoin-07_2.htm )



■奈良に伝わる西域の服装、胡服

 奈良に伝わってきたと思われる西域の服装が正倉院の中にあるの。胡服とよばれています。詰襟で、筒袖の袍(ほう)の形で、袖口が細いのが特徴。正倉院に残っ ている胡服は袖口が細い。楽器を演奏する人とか、写経する人とかの服が主に残っている。なんでこんなに袖口が細いかっていうとね、やっぱり砂漠やからね砂 が入るから広い袖口の服は着られないの。それに馬に乗るからね、あまりブカブカした服は着られないの。具体的に着た姿は芸能の散楽とか伎楽の服装に見られます。

 具体的に残っている着装の資料といったら、正倉院の弾弓に散楽の人物が96人描かれているものになるかしら。ちょうど去年(2007年)正倉院展で出されたのよ。それを私、全員取り上げて調べたの。袖口が少し広いものもあれば、細いものもあるでしょ。踊ってる人やら、太鼓をたたいている人やら、いろんな人が描かれていて。

 細い袖のものに、半そでのものを重ねているのも見られるでしょ?これ重ね着ルックなのよ。ほら、この人はブーツはいてるでしょ?ブーツなんてものは正に馬に乗る人たちの服装ですよ。

 



■ショールやベール

  砂漠では、女の人は、ショールやベールが必需品なのよね。薄い生地でできていて、透けるじゃない?これがまた、美しいんですよ。

  それでね、それが流行の発端となって、西域との交流ができるようになると、中国のメインの地域の中原(ちゅうげん)でね、ショールやベールといったものが大流行するのよ!それでね、唐の時代の女性の絵を見るとほとんどショールやベールが描かれているの。西域の人たちは和田(ホータン)は今も絹の産地でショールやベールを使ったの。日本に入ってくると、領巾(ヒレ)という呼び名がついたのよ。

 

鳥毛立女屏風
国家珍宝帳記載品。樹下に唐風美人をあらわす。国産品。鳥毛は微存。彩色箇所以外は下絵の墨線がみえる。 (奈良国立美術館HPより抜粋)



ウイグル族の踊り子たち




吉祥天女画像

上衣のすそに小さな玉がついている

■ウイグル自治区の踊り子と吉祥天女画像との意外な関係

  中国の西域は、今はウイグル自治区になっている。では現在はどんな生活をしているのか、っていうのを調べたの。

  家族・衣食住で、いわゆる生活環境学部で行ったのよ。そこでね、踊り子さんの服装と吉祥天像の服装のある共通点を見つけたの!この上着の裾に玉飾りが付いてるでしょう?今はプラスチックなんだけど、もしかしたら昔は玉だったかもしれないわよね。

  パキスタンなんかでよく見られるミラー細工ってあるでしょ、布にガラスとかミラーとか、スパンコールとか、金属とか異質な素材を布につけるのは日本ではありえないでしょ?洗濯するから。

   私ね、ウイグル族の踊り子さんの服をみてハッとしたのよ!この吉祥天像の裾に玉飾りがついてるの分かる?赤い布の裾についてるのよ。それで、こんな異質な素 材が服についてるなんてすっごく西域風だなーっと思って見てたの。そしたらあなた、今でもウイグルにあったよ!ってね(笑)

 でも、西域の人たちは乾燥地帯だから、洗濯しないのよ。汗かいても蒸発するしね、乾燥してるから臭わないのよ!それってね、すごいよ〜(笑)

  日本は湿度が高いから、ちょっと不潔にするとすぐ臭うのよね、発酵して。でも西域では不潔でも臭わないのよ。臭わないから、気にならないの。

【写真上】ウイグル族の踊り子たち…上衣のすそに小さな玉がついていることが分かる。

新疆ウイグル自治区…中国北西部のウイグル族の自治区。アルタイ・天山・崑崙(こんろん)の三山脈と、その間に広がるジュンガル・タリム両盆地からなり、砂漠・山岳が大部分を占める。もと新疆省。古来、シルク-ロードが通じる東西交通の要路。区都ウルムチ。別名、新。東トルキスタン。[大辞林]

【写真下】 吉祥天女画像… 国宝。奈良時代。吉祥天女[きちじょうてんにょ]は福徳豊穣の守護神として崇敬され、この吉祥天女の前で年中の罪業[ざいごう]を懺悔[さ んげ]し、除災招福を祈る、いわゆる吉祥悔過[きちじょうけか]の本尊として祀られています。 薬師寺では正月に行う法要 修正会[しゅしょうえ]が吉祥悔過法要にあたり、宝亀2年(771)以降行なわれています。毎年11日〜15日まで、その期間中の薬師寺ご本尊として金堂薬師三尊像の御宝前にお祀りされます。 この吉祥天像のお姿は光明皇后[こうみょうこうごう]を写したと伝えられ、麻布に描かれた独立画像としては、日本最古の彩色画です(薬師寺HPより抜粋)。

  奈良の時代を今に伝える画、また毎年10月末頃から開催される正倉院展の宝物。その一つ一つの宝物は、その細かさや美しさから人々の目を引き付けてきた。しかし、背景を知っていれば、その宝物が生みだされた国や人をも感じることが出来る。服飾文化の専門家から見る正倉院展はさぞ発見や喜びに満ちたものであろう。

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