鹿による植生の変化

二月堂周辺の景観

川と歌碑

 

奈良公園周辺

奈良といえば、東大寺や鹿を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか?修学旅行で行ったと言う方も多いと思います。2010年は平城遷都1300年祭で平城旧跡にもたくさんの観光客が訪れました。そんな古都奈良のあまり知られていない魅力を探りに、私たちは野外踏査に行きました。普段とは違う視点で奈良を散策してみるのは楽しいことです。その中でも、鹿が多く生息している奈良公園周辺に注目したいと思います。

1.鹿による植生の変化

2.二月堂周辺の景観

3.川と歌碑

 

1.鹿による植生の変化

 

奈良公園には鹿がたくさんいます。古くは春日大社の神鹿として保護され、害した者は厳罰に処せられたとことから、誤って鹿を殺した三作という少年が生き埋めにされたという悲しい伝説が残っています。(「奈良県の歴史散策 上」山川出版社)現在、鹿は観光客にかわいがられながら奈良公園と共に生きています。鹿せんべいを買った途端に周囲を鹿で囲まれ、「ちょうだい!」と猛アピールをしてきます。そんな可愛い鹿ですが、植生に与える影響はすさまじいのです・・・

 

 

例えばこのイラクサ。茎や葉にチクチクした刺毛があるのですが、鹿が多く生息する場所とそうでない所の違いは一目瞭然です。

 

 

イラクサ (Urtica thunbergiana

奈良女子大学構内(左)と東大寺北側(右)で撮影したものです。刺にギ酸が貯えられており、刺さると痛みを引き起こします。茎を見ると、明らかに右の方が刺毛の数が多いことが分かります。これは鹿の多い場所の方が鹿に対する防衛として、植物が進化してきたことを示しています。

 

アシビ(馬酔木 Pieris japonica subsp. Japonica

有毒であり、鹿が食べないので奈良公園ではよく見られる植物です。

 

これは奈良女子大学正門近くにある放送大学にて撮影したものです。ハナミズキを植えているのですが、鹿が食べないようにと柵をしています。他にも春日大社周辺でこのように柵で囲まれた部分がたくさんあります。

 

 

ナンキンハゼ(Triadica sebifera

虫や鹿が食べないため、これもよく見られます。街路樹としても有名です。葉が落ちると写真のように白い実を付けてくれ、虫が食わないという理由で好まれています。

 

これもナンキンハゼですが、まだ小さいものです。

東大寺北側の広々としたところに生えていました。他の植物があまり植生していない中、この高さまで鹿に食べられることなく、生き残っています。下にある黒い粒が鹿のフンです。こんなに急接近しているにも関わらず、食べないということは鹿にとってナンキンハゼはまずいのでしょう。

 

 

ヒメワラビばかりがいっぱい生えているのが分かります。東大寺北側のスギの木の下で撮影したものです。これも鹿は食べません。ワラビはあく抜きしないと人間でもお腹を壊すようなので、調理ができない鹿も食べてしまうと、お腹を壊してしまうのでしょうか。

 

 

 

鹿の植生に与える影響は、飛火野でも見られます。

 

木の下がきっちり揃っているのが分かりますか?これは鹿が届く高さまでは全て食べられてしまっていることを示します。下も草はあまり生えていません。

 

 

奈良公園周辺を歩いて様々な植物を見たところ、植生は鹿にかなり影響を受けていることが分かりました。イラクサは刺毛があまりないものが鹿に食べられてこなかったことによって、選択が行われ、奈良公園では刺毛が多いものが残りました。鹿に食べられないワラビ、ナンキンハゼ、アセビ、ヤブニッケ(鹿が嫌う匂いのため)、ナニ、カナクニノキなどがたくさん生えていました。そのほかにコナラ、クヌギが見られました。どんぐりや落ち葉はよっぽどお腹が空いたときに食べるもののようです。

 

 とにかく奈良公園は鹿が繁殖しすぎて鹿による被食圧がものすごいことが伝わります。

以前はオオカミなどの鹿を獲物とする動物もいたことでバランスを保っていたのですが、今ではそれもいなくなってしまい、鹿が増えていってしまったのだと考えられます。鹿が増えすぎていることで、食物不足を引き起こし鹿自身も困る状況になりかねません。

人とは上手く共存している鹿ですが、生態系の観点から見ると考えなければならない部分は多いと感じます。