令和8年度奈良女子大学入学宣誓式 学長式辞
新入生の皆さんは今、どのような志を抱いてこの場にいらっしゃるでしょうか。高等学校までの学びとは異なり、大学での学びは、既存の学問体系をなぞるだけでなく「自ら問いを立て、自ら行動する」ことが基本となります。新しい修学システムに戸惑うこともあるかもしれませんが、どうか周囲との対話を恐れないでください。同級生や先輩、そして私たち教職員と積極的にコミュニケーションを取り、周囲の力を借りながら、この四年間を意欲的で実り豊かなものにしていくことを願っています。
さて、皆さんが踏み出すこの道は、かつてないほど「知」の真価が問われる時代の入り口でもあります。現在、日本の大学進学率は男女ともに50%を超え、大学教育は広く普及しました。しかしそれは同時に、「大学卒業」という肩書きだけでは、もはや将来を保証するパスポートにはなり得ないという現実を意味しています。
私たちが生きる現代社会は、グローバルな経済変動や環境問題など、正解のない問いに満ちています。とりわけ生成AIをはじめとするテクノロジーの台頭は、断片的な「知識」の価値を劇的に塗り替えました。検索すれば即座にデータが得られる現代において、大学で学ぶ本質とは何でしょうか。
私は、それこそが「研究」というプロセスを通じて養われる、強靭な思考力であると考えます。表層的な情報処理に留まらず、一つの事象を徹底的に掘り下げ、玉石混交の情報の中から本質を見抜く力。蓄積された「知識」を生きた「知恵」へと昇華させ、複雑な課題に対して自分なりの解決策を導き出す力。こうした力こそが、これからの時代を生き抜く武器となるのです。
そして、その力を維持するためには、「学びの継続」が不可欠です。生産年齢人口が減少する日本において、社会を牽引するのは、高度な専門性を持ちながらも、常に他分野の知見を取り入れ、自らを更新し続けられる人材です。四年間を単なる終着点への過程とせず、生涯にわたって学び続けるための、あるいは将来再び大学院等の門を叩き「高度な学び」へと立ち返るための、強固な基礎をこの地で築いてください。
さて、本学に入学された皆さんに、今、特に意識していただきたいことがあります。それは、日本社会における「ジェンダーギャップ」という厳しい現実と、それを乗り越えていくための皆さんの役割についてです。
現在、日本は歴史的な転換点にあります。高市早苗氏が憲政史上初の女性内閣総理大臣に就任されたことは、長年「ガラスの天井」に阻まれてきた我が国にとって、一つの明るい兆しであり、大きな一歩であることは間違いありません。しかし、リーダーが一人誕生したことで、社会に根深く存在するジェンダーギャップが直ちに解消に向かうわけではないという現実も、私たちは直視しなければなりません。
世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2025」において、日本の総合順位は148カ国中118位と、依然として世界から大きく取り残されています。特に経済分野での女性管理職の少なさや、政治分野における参画の低さは深刻な課題として横たわっています。真の平等の実現には、法制度や慣習の変革、そして社会を構成するすべての人々の意識改革が必要であり、その道のりは未だ半ばにあります。
このような時代において、奈良女子大学に入学された皆さんには、単に既存の社会に適応するだけでなく、社会の在り方そのものを問い直し、変革していく先駆者となっていただきたいのです。トップランナーが切り拓いた道に続くのか、あるいは自らが新しい道を創り出すのか。いずれにせよ、高度な専門性と強靭な思考力を持って、不条理な壁を突破していく力が、皆さんには期待されています。
皆さんがこれからの四年間、多様な個性が尊重されるこの学び舎で、既存の価値観に縛られない「自分自身の物差し」を手に入れてください。そして、未知なる世界へ一歩を踏み出す「挑戦する勇気」を蓄え、社会をより良い方向へと導く真のリーダーシップを身につけられることを強く願い、私の祝辞といたします。
令和8年4月4日
奈良女子大学長 高田将志